「もうやらない」は、やった者だけが言える言葉

　たとえば昨年の「ステイホーム」時。ジムでの練習ができない中でも、彼は「問題ない」と言い続けた。家でもできる練習はある、どんな状況でも強くなるかどうかは工夫しだいだと。星野源の『うちで踊ろう』に合わせた自宅でのシャドーボクシング映像は、文字通りダンスのように滑らかで美しく、なおかつ殺傷力を感じさせた。

　遡ればRIZIN初参戦はMMA（総合格闘技）ルール。12月29日、31日という尋常ではない連戦をクリアした。当時の彼は「ここで挑戦するかしないかで自分の人生が変わる」と腹を括ったそうだ。その結果として今がある。

　今回もそうだ。対戦相手が見つからず、まともな試合が組めない。賛否両論は当然のこととして受け入れる。それでも彼はやるかやらないかでやるほうを選び、他の誰もできない経験を得た。「もうやらない」は、やった者だけが言える言葉だ。

　那須川天心は現役ムエタイ王者をKOし、中1日でMMAの連戦に勝ち、フロイド・メイウェザーJr.と殴り合い、東京ドームを舞台に1試合で3人と闘った。そんな人間、世界中どこを探してもいない。

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