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【幻の東京五輪】中国が抗議「戦争を仕掛ける日本に五輪開催地の価値はない」、IOC会長は何と答えた? 

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近藤正高

近藤正高Masataka Kondo

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posted2021/06/16 11:04

【幻の東京五輪】中国が抗議「戦争を仕掛ける日本に五輪開催地の価値はない」、IOC会長は何と答えた?<Number Web> photograph by KYODO

1940年東京五輪の代替大会のひとつとして開催された第11回明治神宮国民体育大会のポスター。戦時色が色濃い

 山川の言に従うなら、オリンピックは平和の祭典として始まった時点で「純粋なスポーツ」の大会ではなかったことになる。もちろん、IOCは現在にいたるまで、スポーツ界やオリンピック大会の独立性を堅持することに努力を払ってきた。だからこそ開催国の政府が推進する政策や政治的な諸問題には干渉を避けた。

 IOCが開催国に警告を発するのは、政策や政治的問題が大会の準備や開催に干渉・介入したり、オリンピックの規則を蹂躙する場合にほぼ限られきた。1938年3月のIOCカイロ総会では、会長のラトゥールが委員の嘉納治五郎に対し、「大会開催までに中国との戦争が終結していなければ、IOCはもちろん日本自身のためにも大会の開催を断念したほうがよい」とかなり踏み込んだ勧告を行ったが、これとても、戦争のため東京五輪の準備・開催に支障が出るのを危惧したからにすぎない。

 IOCは日本政府の政策自体にはあくまで干渉を避けた。そのことは、同じ総会で中国のIOC委員・王正延が「平和な隣人に対して侵略的な戦争を仕掛けようとする国にオリンピックの開催地としての価値はない」として開催地を東京から変更するよう提案したのに対し、会長のラトゥールは、オリンピック憲章中にこのような提案を容認する条項はないと退けたことからもあきらかだ。

 こうした姿勢は、現在のIOCにも頑ななまでに貫かれている。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、中止を望む声が強まるなかで東京五輪の実施に突き進むのも、開催に干渉されるのを何より嫌うIOCの姿勢がうかがえる。しかし、それはオリンピックをスポーツの純粋性からさらに乖離させることになりはしないだろうか。

 1940年の東京五輪が返上されるにいたった背景には、単に戦時下の日本の特殊な事情ばかりでなく、ここまで指摘してきたように、IOCの態度も含めて現在にも通じることが少なくない。今回のオリンピックはこのままいけば開催される可能性が濃厚だが、今後の大会のあり方やスポーツの本来の意義を考える上でも、いま一度、戦前の幻の東京五輪について省みる必要があるのではないだろうか。

(【初回を読む】81年前の“幻の東京五輪”、返上されたのは戦争だけが理由ではなかった「スタジアムもスケジュールもグダグダだった」 へ)

【主要参考文献】
橋本一夫『幻の東京オリンピック』(NHKブックス/講談社学術文庫)
坂上康博・高岡裕之編著『幻の東京オリンピックとその時代 戦時期のスポーツ・都市・身体』(青弓社)
夫馬信一『幻の東京五輪・万博1940』(原書房)
石坂友司『現代オリンピックの発展と危機 1940-2020――二度目の東京が目指すもの』(人文書院)
浜田幸絵『〈東京オリンピック〉の誕生 一九四〇年から二〇二〇年へ』(吉川弘文館)
文藝春秋編『「文藝春秋」にみるスポーツ昭和史 第1巻』(文藝春秋)
菊池信平編『昭和十二年の「週刊文春」』(文春新書)

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