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「負けるよりも屈辱的だった」井岡一翔の怒りは収まらない “薬物疑惑”をかけられた世界王者が語るJBCへの思い
posted2021/06/03 11:04
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Takuya Sugiyama
ボクシング4階級制覇王者・井岡一翔が明かした騒動の一部始終、そして今の心境とは?
現在発売中のNumber「サッカーEURO」特集号掲載のインタビューを、特別に全文公開する。
新聞各紙に“怒りの会見”と報じられた5月19日の記者会見から1週間近くたっても井岡一翔の気持ちは収まっていなかった。それはそうだろう。ドーピング違反、薬物摂取とまで報じられた“疑惑”の要因がプロボクシングを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)のお粗末極まりないドーピング検査にあったのだから。
「心外でしたし、名誉も傷つけられました。21歳で世界チャンピオンになってからは、日本ボクシング界のためにも、ボクシングに日が当たるというか、より注目されるように一人の選手として頑張ろう、使命としてやっていこうとずっと思ってきたので。それを10年間やってきて、その仕打ちがこれなのかと。すごい悔しかったですね」
JBCは同じ19日の記者会見で、永田有平理事長が「直接会って謝りたい」と発言したが、その言葉は井岡の心にまったく届いていない。
「謝罪を受けたいという気持ちはありますけど、お互い同じ温度じゃないと、謝られても意味がないと思うんで。それを受けることによって、向こうに終わったと思ってほしくもない。謝ったんで終わりです、って思われるのはつらいですね」
伝わってきたJBCに対する怒り
都内の閑静な住宅地にある所属事務所の会議室で、井岡は今回の事件の顛末を語った。物静かな口調とは裏腹に、事態の深刻さと、井岡の受けた傷の深さ、そしてJBCに対する怒りが伝わってきた。
あの日のことは生涯忘れないだろう。2021年4月6日、場所は都内の自宅マンションだった。時刻は午前11時から12時ごろと記憶している。妻が1歳8カ月の幼子を連れて近所の公園に出かけ、自らは午後の練習にそなえて支度を始めていた。警察の来訪により色彩に満ちたいつもの一日は一瞬にしてモノトーンに変った。
「妻が一度外に出て、ブランケットを取りに戻ろうと引き返したところ、10人くらいの捜査員に囲まれたそうです。妻が家に戻ってきて僕を呼びました。玄関に行くと警察がいて、令状を見せて『これから家宅捜索をします』と。大みそかの試合のドーピング検査で尿から大麻成分が出たと説明を受けました」