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井上尚弥との激闘から1年半 ドネアが明かす“敗因”「追い込んだ9ラウンドは、今でも考えることがあります」
posted2021/05/27 17:04
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Getty Images
“フィリピーノ・フラッシュ”がリングに戻ってくる。5月29日、軽量級の4階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)が世界王座奪還をかけ、カリフォルニア州カーソンでWBC世界バンタム級王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)に挑む。ウバーリも17戦全勝(12KO)の実力派王者であり、好ファイトは必至だ。
2019年11月7日、ドネアはさいたまスーパーアリーナで行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)決勝で井上尚弥(大橋)と対戦し、のちに“ドラマ・イン・サイタマ”と称される歴史的激闘の主役の1人になった。あの忘れ難き名勝負から早くも1年半――。
昨年5月に一度はウバーリへの挑戦が決まりながら、パンデミックの影響で延期に。ウバーリの新型コロナウイルス感染で同カードが再延期を余儀なくされると、ドネア自身もウイルスに感染。昨年12月に予定されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦の出場も辞退せざるを得なかった。
このように運命に翻弄され続けたドネアは、どんな思いで日々を過ごしてきたのか。38歳になった今、何を目指してリングに上がるのか。
ウバーリ戦を目前に控えた5月20日、今回のタイトル戦とその後の戦いにかける思いを聞いた。その言葉からは、いまだに変わらない自らの伸びしろへの自信と、日本の宿敵とのリマッチへの熱い思いが湧き上がってきた。
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井上尚弥戦は「若い頃のような闘争心が欠けていた」
日本での井上戦からもう1年半も経ったなんて信じられませんね。
井上との試合は今振り返っても本当に素晴らしいファイトでした。自分のキャリアの中でも思い出深く、エキサイティングで、見ているファンを喜ばせる内容でしたね。9回には私が井上にダメージを与え、11回には逆にダウンを喫しましたが、立ち上がって最後まで戦い抜きました。打ち合いの中で私たちは勇気を誇示し合い、まるで映画のような試合でした。
井上に右を決めて追い込んだ9ラウンドは、今でも考えることがあります。あの瞬間の私にいったい何が欠けていたのか。あの日、私になかったのは、若い頃のようなキラー・インスティンクト(闘争心)。それゆえに勝利を逃してしまいました。しかし、ウバーリ戦に向けて、私はそのキラー・インスティンクトを取り戻すことができたと感じています。