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初めてワクチンを接種した日本人アスリート? イスラエル帰りの野瀬将平に聞いた異国の感染対策と「紛争」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byShohei Nose
posted2021/06/01 17:00
ハポエル・クファルサバ(イスラエル)のチームメイトと写真に収まる野瀬将平
ワクチンを打ったことによる安心感という野瀬自身の変化はもちろんあったが、それ以上に大きかったのが環境の変化だった。
イスラエルでは12月末から続いていたロックダウンが2月から段階的に解除され、4月中旬には、屋外でのマスク着用が義務ではなくなった。
スポーツを取り巻く環境も変わった。イスラエルリーグは無観客で行われていたが、3月にはグリーンパス(接種証明書)を持っている人は入場が可能となった。
「『スポーツの日常がかえってきたなー』と感じました。4月中旬あたりにはもう、“コロナ終わった感”がありました」
それだけに、4月21日に日本に帰国した時には、過去にタイムスリップしたかのように感じた。
「ニュースで見てはいたんですけど、最初はやはり、イスラエルとはだいぶ違って、『あーこうだったよな』と。街を歩いていても、やっぱりまだまだだなと感じますね」
ルームメイトだったポーランドの選手は、ワクチンを接種していたため、母国に入国する際の隔離期間が免除されたが、日本では免除はなく、野瀬は帰国後、指定の宿泊施設で3日間過ごし、その後11日間自宅で隔離生活を送った。マスク着用や手指消毒など、感染予防は今も以前と変わらずに行っている。
「ワクチンを打ったからといって、感染する可能性が0になったわけじゃない。イスラエルではみんなが接種していたから、そもそも周りに感染者があまりいなかったんですが、日本ではまだ多いので。それに、周りの人が嫌な思いをするじゃないですか。『僕は大丈夫なんで』と言ってやらなかったりしたら」
火種があることは知っていたが
イスラエルとパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスによる軍事衝突が勃発したのは、野瀬が日本に帰国して隔離生活を終えたばかりの頃だった。
「びっくりしました、本当に。僕がいた時は全然危険を感じなかったので」
もちろん野瀬も、イスラエルに紛争の火種があることは知っていたが、情報収集をした際には、2014年以来大きな衝突は起きておらず、攻撃する際にはあらかじめ一般市民に避難するよう警告する措置が取られていると聞いていた。実際、野瀬がイスラエルで生活していた約8カ月間、身の危険を感じたことはなかった。
それが、大量のロケットが飛び交い、一般市民にも犠牲が出ているというニュースに絶句した。イスラエルのチームメイトや友人に連絡をとると、全員無事だったが、テルアビブにいたアメリカ人のリベロは、「すぐ近くをロケットが飛んでいるので怖い」と話していたという。
実は、生命の危機と隣り合わせの場所にいたのだと知った。
この1シーズンの経験は、野瀬の人生観を揺さぶった。