“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「具体的で、ハッとなる」U-17日本代表が中村憲剛の助言に目がキラキラ…“欧州よりJリーグを観る”スマホ世代
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJFA/AFLO
posted2021/05/03 17:03
中村憲剛コーチの話を真剣に聞くU-17日本代表MF大迫塁(神村学園2年)
合宿を終え、U-17日本代表の森山佳郎監督はその意義をこう語る。
「単純なパスコントロールの練習でも、憲剛コーチはどんなボールでもピタリと足元に止めるのに、代表の子どもたちは止まらない。誰が見ていても、明らかにその違いがわかるわけですよ。意図通りに止められることがどんなに難しくて、大切なことかを、僕らが口で何度も同じことを言っても、実際にトップレベルの選手が『こうだよ』とパッとプレーで見せられる説得力には敵わない。選手たちも目をキラキラさせて話を聞いていた」
中村コーチは彼らにとって、いわゆる「過去の人」ではない。昨年までJ1トップのクラブにいた主力であり、多くの選手たちがプレーを見ている。しかも中村コーチは、ずば抜けた身体能力があるわけではなく、育成年代の時には注目を集めるような存在ではなかった。それでも技術を積み重ね、改良を繰り返して超一流の選手になっていた。多くの選手たちがモデルケースとして捉えるロールモデルコーチとして最適な人材ではないだろうか。
大迫塁が口にした「後悔」
今回の合宿を取材し、筆者が最も収穫を実感したのは大迫が口にした“後悔”だった。
大迫は練習後や合宿3日目に行われた明海大との練習試合の後など、何度も中村に質問し、その度に自分の不甲斐なさを感じていたという。
「憲剛さんからいろんなものを吸収しようと必死でした。正直もっと聞きたかった。でも、なかなか具体的な言葉が出て来なかった。それはまだ自分の技術やサッカー脳が追いついていない証拠。まだ足りていない部分が多すぎると感じました」
まだまだ発展途上の高校生だけに未熟な部分は多い。この世代で最も大事なことは、大迫のように自分にベクトルを向けて考えることができるかどうか、だ。それがいい指導を成長の糧にできる要因ではないだろうか。
中村コーチからアドバイスをもらった大迫は、より周りから情報収集を意識し、そしてファーストタッチの改善、ポジショニングとスペースの創出・活用のレベルを向上させるべく、日々の練習に取り組んでいる。
「自分の現在地と目指すべき場所が見えた気がします。これから先、自分が進化を見せることで、次の機会があったときに僕が憲剛さんにぶつける質問の精度が上がる。そうすればまた新たな発見ができるし、もっとサッカーが楽しくなると思うんです」
中村コーチは彼らにこんな言葉をかけていた。
「もっと遊べ。相手をよく見て、もっと遊び心を持ってやった方がいい」
小さな体でJリーグを牽引してきた先駆者の言葉は、未来へのヒントになる。