ボクシングPRESSBACK NUMBER
“泥酔事件”王者・寺地拳四朗に“2度ドタキャン”された男、久田哲也36歳がついに挑戦「正直、舌打ちしたい気持ちでしたけど…」
text by
芹澤健介Kensuke Serizawa
photograph byKensuke Serizawa
posted2021/04/23 11:01
1年半ぶりの実戦に「歳は取りましたがそのぶん練習できました」と語る久田
引退も考えたが……再び世界王座に挑む
「長い間待たされましたが、今度の試合に勝って、世界チャンピオンになるのは僕です」
久田は今まっすぐ前を見つめている。翻弄された過去は振り返らない。勝てば36歳5カ月での世界王座奪取。元世界3階級王者・長谷川穂積氏が持つ35歳9カ月の国内最年長記録を更新して、“超”遅咲きの世界王者が誕生することになる。
世界挑戦は2度目だ。
前回は2019年10月に行われたWBA世界ライトフライ級タイトルマッチ。スーパー王者の京口紘人(ワタナベ)に挑み、判定までもつれ込んだが惜敗した。その年のベストバウトに挙げるファンもいるほど、見せ場の多い試合だった。
「試合直後は『すべてを出し切った』と思って、引退のことも考えました」
だが、試合に負けた日の夜、腫れた顔を冷やしながら一人でビデオを見返すと、反省すべき箇所が次々に出てきた。そして、もっと強くなりたい、と思った。気がつくと、引退という二文字は頭から消えていた。
「前回の試合は今ではいい予行練習だったと思ってます」
240ラウンドのスパーリング
「自分がテクニックのあるボクサーだとは思っていない」と久田は言う。
だが向上心は誰よりも強い。そう自負している。京口戦の後、試合のテレビ解説をしていた長谷川穂積氏に連絡を取り、どこを直せばもっと強くなれるのか直接教えを乞いに行った。
「そのとき長谷川さんからは、基本のジャブの打ち方から直すように言われて。かなり凹んだんですけど、逆に考えたら『今までよく戦ってきたな』と(笑)」
京口戦後から1年半、会長以下、川崎庸右トレーナーやジムの仲間たちと一丸になって、取り組んできた。今までで今が一番強いと素直に思える。
スパーリングにも力を入れた。通常なら試合前のスパーは100~120R程度というところを、今回は倍近くの240Rをこなした。
出稽古でスパーした相手は、田中恒成をはじめ、前回ライバルだった京口紘人、日本フライ級王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)、WBC世界フライ級ユース王者の畑中建人(畑中)、さらにはWBC世界ライトフライ級で久田のすぐ下の2位につけている矢吹正道(緑)……。錚々たる面々と汗を流してきた。
「チャンピオンのボクシングをさせないこと」
7度の防衛をしてきた王者を倒すのは、決して楽なことではない。そのことは久田も十分理解している。先日の記者会見でも久田は寺地を「偉大なチャンピオン」と呼んだ。