ボクシングPRESSBACK NUMBER
“泥酔事件”王者・寺地拳四朗に“2度ドタキャン”された男、久田哲也36歳がついに挑戦「正直、舌打ちしたい気持ちでしたけど…」
text by
芹澤健介Kensuke Serizawa
photograph byKensuke Serizawa
posted2021/04/23 11:01
1年半ぶりの実戦に「歳は取りましたがそのぶん練習できました」と語る久田
王者・寺地は典型的なアウトボクサーだ。常に自分の距離を保ち、まるでフェンシングのようなスタイルでほんの一瞬の隙をついて攻撃を繰り出してくる。対する久田は近い距離での撃ち合いを得意とするファイターだ。
「正直、久田さんにとってはやりにくい相手だと思います」と言うのは、これまで久田とは何度もスパーで手合わせをしている畑中建人。畑中は元WBC世界スーパーバンタム級王者の畑中清詞氏を父に持ち、近い将来、日本で初めて親子で世界王者になると目されているボクサーである。両者のボクシングを冷静に見ている。
「拳四朗選手はとにかく出入りが速くて、自分の距離で戦ってくると思うので、久田さんが勝つにはその距離をいかにつぶすかだと思います。絶対に相手の距離で戦わないこと。ガンガン前に出ていって、とにかく頭を振って、引っ掻き回す。チャンピオンのボクシングをさせちゃダメです。相手の精密なコンピューターを壊すくらいの気持ちで勝ちにいってほしいですね」
亡くなった前会長のためにも
久田にはどうしてもチャンピオンベルトを見せたかった人がいる。もともと試合が行われるはずだった昨年12月19日の2日後に亡くなった原田実雄前会長(享年79)だ。
食道がんを患っていたが、試合を控えた久田に心配をかけまいと病状は伏せていた。そのため、最後に交わした言葉も何気ない電話での会話だったという。
「『練習してるか。お前は世界を獲らなあかんからね』って。体調が良くないとは聞いていたんですが、まさかがんとは知らなくて……」
高校1年生で今のジムに入門してからもう21年になる。先代の会長とはその間のほとんど毎日を一緒に過ごした。
京口戦を前に取材した際も「久田はね、30歳を過ぎてからほんまに強くなったんですよ。ええパンチ打つでしょう」とまるで息子を見るように目を細めていたのが印象的だ。
「先代の会長も見守ってくれると思います。それから、ジムのみんなや一緒に練習してくれた人たち、応援してくれる人たち、家族、いろんな人の声援を力に変えて勝ってみせます」
4月24日、久田は全身全霊でベルトを奪いに行く。