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「予算に限りがあっても…」 鳥栖・金明輝監督が掲げる「チーム7、個人3」の戦術、ヒントを得た欧州クラブは?【インタビュー】
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2021/04/06 17:00
好調のサガン鳥栖を率いる金明輝監督。その指導スタイルとは?
作り込む部分と、自由のバランスはどれくらい?
――左サイドのメカニズムも秀逸で、中野伸哉選手、小屋松知哉選手、仙頭選手と、左サイドに人数を多く掛けているにもかかわらず、渋滞することがありません。チームとしてかっちり作り込む部分と、選手たちに自由にやらせる部分のバランスはどうなのでしょう?
「数字で言うと、チーム7、個人3くらいですかね。選手ってやっぱりボールに触りたいんですよ。Jリーグのどのチームも中締めをするので、例えば、小屋松のポジションは中を締められると、ボールに触れないことが多いんですね。ただ、彼がそこにいるおかげで、ボールが前に入る。そう理解してもらっているつもりですけど、選手もボールにずっと触れないと、リズムが出ない面もある。なので、時と場合によって、選手がボールに触りに行くのは任せています。
相手のプレッシングはほぼ回避できていて、相手コートにボールを運ぶ形もチームとしてできている。チームのやり方を理解して選手がポジションを取れるようになってきたので、多少自由にやらせても、チームのやり方から外れる動きをする選手はほぼいない。あとはそこから先ですね。怖がらず、もっともっと人数を掛けてゴール前に入っていかないと相手は崩せない。そこがどう変わってくれるか、期待しています」
やっぱり“降格”がなかったのが大きかった
――ここまでのお話を伺っていると、今年のようなサッカーをやるために、昨年からベースの部分を仕込んできたように感じます。
「昨年、マンパワーでは勝てないので、チームとして戦っていかないといけないと強く思ったんですよ。そのうえで、やっぱりコロナ禍で降格がなかったのが大きかった。もちろん、負けていいと思ったことは一度もないし、どの試合も最高の準備をしましたけれど、ベテラン選手たちがチームに対して良い関わり方をしてくれたこともあって、若手を積極的に起用できたのは大きかったです。ここしかないと思って強く舵を切りました。残留争いがあるなかで、若い選手たちが勇気を持って戦えたかというと、難しいと思うんです。僕自身も残留争いを何度か経験しましたけど、本当に足がすくむくらいの緊張感がありましたから。昨年はそれがなかったので、勝利にベクトルを向けながら、やりたいサッカーにトライして、若い選手たちがのびのびとプレーできた。それによって選手の成長を促せたし、今年のチームの下地作りもできた」
――サガン鳥栖はこうやってゲームを進めていくんだ、という選手の理解が深まったわけですね。
「そうなんです。しかも、昨年のサッカーを見て、来てくれた選手も多い。仙頭もそうだし、島川(俊郎)は大分(トリニータ)でもポジショニングを意識したサッカーをやっていて、サッカーIQの高い選手が加入したことはチームにとって大きい。山下もそうです。ジェフ(千葉)では前線でロングボールを競ったり、収めたりする仕事をしていましたけど、さらに成長するためにうちに来てくれた。こうした部分でも、昨シーズンを有効活用できていると思います」
――昨年1年を無駄にしてしまったように感じられるチームもあるなか、鳥栖は昨年からの上積みがしっかりなされていますね。対戦相手や状況に応じて4-4-2、3-2-5、4-3-3、5-3-2、2-2-6……と形を変えられるようになった。守る際に5バックを採り入れ、攻撃の際に前線に6人が並んだり、左右非対称のスタイルもそう。昨季にベースを築けたという手応えを得たうえで、今年のプレシーズンではさらに進化させることを意識したのでしょうか?
「昨年の終盤は、13試合で1敗しかしなかったんですよ。負けた試合は仙台とのホームゲーム(●0-1)なんですけど、昨季の中で内容が最も良かったのに、カウンター1発で長沢(駿)選手に決められてしまった。それ以外は川崎、名古屋、ガンバ大阪にも負けなかったし、セレッソには勝利した。それが自信になって、これをチームカラーとしてやっていこうと。
ただ、今年のメンバーは昨年とは違うので、今のメンバーを生かすには、どんな取り組みをすればいいか。あと、失点を減らすための作業もやっていこうと。プレッシングを仕掛けるだけでなく、リトリートするときには人数を掛けて守る。これは運動量のあるチームだからこそできる戦術で、自分たちの強みだと思っています。ただ、無失点にこだわっているわけではなく、攻撃、アクションに特徴を持ったチームを作りたいというコンセプトがある。次の(4月7日の)川崎戦から再びそちらを前面に押し出していきたいと思っています」