「悠太さんにはずっと憧れていました」

　この4月からは、かつて日比監督も所属したホンダで競技を続ける。

「ホンダのシンプルなユニフォームが格好良くて、あのユニフォーム以外は考えられませんでした」

　多くの実業団チームから勧誘を受けたが、川瀬に迷いはなかった。

　憧れの選手だという設楽悠太ともチームメイトになる。

「悠太さんにはずっと憧れていましたが、特にMGC（マラソン・グランド・チャンピオンシップ）のレースを見て、憧れがいっそう強くなりました。あんなふうに芯の通った選手になりたい。僕も、自分らしくありたいなと思っています」

　“自分らしく”――これほど川瀬にぴったりな言葉はないのではないだろうか。

「5000mで日本記録を、パリ五輪にはトラックで」

　日比監督は、今後の川瀬について「まだまだ伸びしろを感じている」と話す。ネガティブ思考のはずの川瀬も、同様の意見だ。

「柔軟性も筋力もまだまだ足りません。股関節が硬いので、今、ハードルのドリルに苦戦しています……。それに、練習も、これまでは質、量が十分だったわけではありません。その辺に伸びしろはあるのかなと思っています。練習の質が上がったり、距離走の本数が増えたりして苦しむ時もくると思うんですけど、それを乗り越えて、強くなりたいと思っています」

　その天井がどれほど高いものなのか、川瀬自身、まだ知らない。

　実業団に進んでからは、世界大会出場を大きな目標に掲げている。昨年の世界大学クロスカントリー選手権は幻の日本代表に終わったが、今度こそ世界選手権や五輪で日の丸を付けるつもりだ。

「5000mで日本記録を作って、パリ五輪にはトラックで出場したい。

　正直、メダルというのはまだ現実味がありません。これからの成長次第では分かりませんが。決勝進出、うまくいけば入賞したいと思っています」

　これが、川瀬が思い描く近未来。世界の舞台でも果敢にチャレンジする川瀬の姿が見られるだろう。