ネット裏記者席で見ていた位置が、投手と打者を結ぶ線のちょうど延長線上。この位置から見て、楠本投手のテークバックが彼の大きな体にピッタリ隠れて全く見えない。つまり、同じ角度で打席に立つ打者にも、楠本投手のテークバックはほとんど見えないはずだ。

　案の定、そこから先は、ストライクさえ投げていれば打たれないのがわかっているかのような迷いのない渾身のピッチング。130キロ後半でも、北海高打線が完全に差し込まれる。このサイズの新2年生左腕で、スライダー、チェンジアップをこれだけ制御できる投手なんて、そうはいない。これが、公式戦デビューの新2年生のピッチングなのか。思いがけず、とんでもない大型サウスポーが登場してきたものだ。

　球筋が見にくい……これは投手にとって、最大の武器になる。

　テークバックで体の向こうにボールを隠して、リリースからの球筋を見にくくするのもそうだし、「球が速い」というのも、要するに速くて見にくいから武器になるのだ。

スカウト「辻内が大阪桐蔭から出てきた頃を思い出した」

　神戸国際大付・楠本のように、1年生の終わりからボールを隠す「技術」を持っている投手はなかなかいない。普通は、苦労して時間をかけて身に付けようと努力して、それでも叶うかどうか…それぐらいの「高等技術」だ。

　7イニング投げる間に、二塁打3本を含めて6本のヒットを打たれたが、完璧に捉えられたのはセンター越えの1本だけ。走者を背負っても、「たまたま打たれただけ……」とでもいうような平然としたマウンドでの態度は、大きな勇気を守るバックとベンチに与える。背番号11でも、「エース」のような貫禄さえ伝わってきた。魅惑の「見えないテークバック」は9回の交替時まで崩れなかった。

「辻内（崇伸・元巨人）が大阪桐蔭から出てきた頃を思い出しましたね」

　あるスカウトが、15年ほど前を懐かしがった。

「ユニフォーム姿、フォーム、角度……マウンドの雰囲気までよく似てる。辻内のほうが速かったけど、勝負度胸というか、バッターを前にしてぜんぜんひるまないあたりは、こっちのほうが見ていて頼もしいですね」

　来年にかけて、ちょっと忙しくなりそうですね。

「センバツ組以外、いない、いない」と嘆いていたそのスカウトが嬉しそうになった。やっぱり追いかける相手が増えるのが、何よりのモチベーションなのだ。

（2）「スターの卵」達孝太（天理）

　このセンバツ、最初の2日間でいちばん楽しみにしていたのが、天理高・達孝太（3年・193cm88kg・右投右打）だった。 

　歌舞伎座に「幸四郎」を観に行くように楽しみだった。

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