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レジェンド葛西紀明が1年ぶりの表彰台 強化指定から外れても貫いた「自分を信じて」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/03/08 06:00
札幌五輪記念ジャンプ、ノーマルヒルで3位に入り、笑顔を見せる葛西
「ここから波に乗って次は優勝を狙いたいです」
「次は(ジャンプを)2本そろえて、優勝できるぞと思っています」
前向きな言葉が並ぶ。
それこそ、葛西の真骨頂だ。
葛西がレジェンドとして敬意を持たれるのは、国内に限った話ではない。むしろ海外で、とりわけジャンプの本場である欧州でこそ、敬意を集めてきた。
象徴的な光景が思い起こされる。
2010年、バンクーバー五輪でのことだ。飛び終えると、葛西は日本のメディアに囲まれ取材に応じた。それが終わると、欧州やカナダなど海外のテレビや新聞記者などが数十名、葛西を囲んだのである。
メダルを獲ったわけではない。それでも殺到した。他競技を含め、ほかの日本の選手にはないシーンだった。
年齢にとらわれず、進化し続けるレジェンド
当時すでに37歳。最近でこそ30代にさしかかっても世界の上位で活躍する選手が増えてきているが、当時、その年齢で国際大会に出場し続け、オリンピックで入賞(ラージヒル8位)を果たす存在は、世界でも驚きでしかなかった。
しかも4年後のソチ五輪では20年ぶりにメダルを手にし、2014-2015シーズンには、自身の持つワールドカップ最年長優勝記録を42歳5カ月に更新する勝利をおさめている。
長期にわたって葛西が活躍を続ける中、ジャンプは大きく変貌を遂げた。最たるものは飛び方だ。以前は板をそろえて飛ぶクラシックスタイルが当たり前だった。葛西もジャンプを始めて以来19歳の頃までそのスタイルだったが、それ以降は主流となったV字ジャンプに変えている。ふたつのスタイルの経験を持つ現役選手は葛西だけだろう。
今なお、体脂肪率は5%を維持し、若手に負けないトレーニングを積む。
努力を重ねられるのは、ひとつには、とことんジャンプが好きだから。以前の取材では「こんなに面白いもの、やめる気になれないです」と語っていた。
そしてもうひとつは、自身の可能性を疑わないという信念だ。
これまで何度も、外因による危機にさらされた。