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【開幕特集】柿谷曜一朗「森島さん、嘉人さん」への後悔と「ウジウジしてもしゃあない」 名古屋で貫く“8番愛”
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byN.G.E.
posted2021/02/26 06:02
グランパスでも8番を身にまとう柿谷曜一朗。31歳となった今、その潜在能力を解き放てるか
徳島の人のおかげで、もう一度プロとして……
――徳島ヴォルティスに武者修行に出させられたときですね。
「はい。僕の得意な、一回落ちて這い上がるっていう(笑)。その一回落ちたときに支えてくれた徳島の人たちのおかげで、僕はもう一度プロとして戦えるようになった。でも、嘉人さんに関しては、思うところがあって。僕の勝手なイメージですけど、僕が8番を着けてセレッソで絶対的な存在になって、嘉人さんが帰ってきたとき、嘉人さんに8番を譲りたいと思ってたんですよ。その間、僕は別の番号を着けて、嘉人さんはセレッソの8番として引退してほしかった。それが、セレッソでやりたかった夢のひとつで。僕が憧れて、結局、届かへんかった先輩をセレッソの1番のヒーローとして送り出したかった。これはもう、ただの個人的な思いです。漫画やったら、たぶんうまいこといくんですよ(笑)」
今の俺では、嘉人さんの花道を作ってあげることは……
――でも、現実は、思い通りにはいかなかった。
「全然違いましたね(苦笑)。自分の中では、嘉人さんと一緒にタイトルを獲って、やっぱり嘉人さんが8番を着けたからタイトルが獲れた、っていうところまでイメージしていて。だから、嘉人さんが帰ってくるときまで8番で居続けなきゃいけない、絶対的な存在になって嘉人さんが帰ってくるのを待たないといけない、と思っていたんですけど、嘉人さんが帰ってくることだけが現実になり、僕は自分が思い描いていた8番になれなかった。これでは、嘉人さんを迎え入れられないというか。だから、ごめんやけど、今の俺では、嘉人さんの花道を作ってあげることはできひんっていう。もちろん、一緒にやりたかったですけど、『期待していた曜一朗じゃない』って言われるのが一番嫌やったから」
――憧れの先輩に対する切実な思いがあったと。
「まあ、(2014年のブラジル)ワールドカップに一緒に行ったからいいか、と自分を納得させた感じです(苦笑)」
ゴール前でうろうろしているだけで点が取れそう
――今回の移籍で取り戻したいものはありますか? サッカーをする喜びとか、自分本来のプレーとか。
「近年、充実した1年をなかなか過ごせていなかったので、頭をクリーンにして、1年間サッカーに没頭したいなって。そうすると、自ずとコンディションもプレーもベストなときの自分に戻ってくるんじゃないかなと。実際に今、すごくいい感じになってきているので。ちょっとずつかもしれないですけど、なるべく早くプレー感覚を戻したいと思いますね」
――2列目には、ガブリエル・シャビエル、阿部浩之、前田直輝、齋藤学、相馬勇紀、マテウスと、ライバルクラブが羨むほどのタレントが揃っていて、1トップの選手としては美味しい状態ですね。
「ほんまにその通りで。ゴール前でうろうろしているだけで、点が取れるんじゃないかっていうくらい、個で打開できる選手が多い。でも、彼らが個で打開しやすくするためにも、いい場所でボールを奪ったり、スペースを空けたり、サポートしたりしないといけない。いろんな選手とイメージをすり合わせながらやっている最中で、そういう楽しさもある。FWには僕とはタイプの違う山崎凌吾もいて、ヤマと争いながら、でも、ふたり同時に出るオプションもあって。そのときには互いの良さを引き出し合える関係を築きたいと思うし」
――八戸戦で試していましたね。
「ほんまにバリエーションがいろいろあって。だから、早く周りから信頼を得ないとあかんなと思います」
――ズバリ、今季の目標は?
「チームとして、もちろんタイトルを狙っていますけど、個人としては、J1が38試合あるので、38点取るくらいの気持ちでいます。ただ、周りにも点を取れる選手がたくさんいるので、19得点19アシスト。このバランスを大事にしたいと思っていて。10得点10アシストの目標を立てても、それを超えられる選手っていっぱいおるじゃないですか。そんなん無理やろって言われるような目標を立てて、挑戦するほうがやりがいある。もちろんACL(AFCチャンピオンズリーグ)でも活躍したいし、すべての試合で得点に絡むことを目指したいと思います」