濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
元“闘うフリーター” 43歳所英男がRIZINで五輪銀メダリストと対戦「デビュー戦だけは僕が勝ちたい」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by(C)RIZIN FF
posted2020/12/29 17:01
43歳・所英男は大晦日のRIZINに参戦する。ベテラン選手だからこその見方があり、若い選手に負けない闘志がある
対戦する太田に「デビュー戦だけは僕が勝ちたい」
今回、一本勝ちできるかどうかは分からない。対戦する太田のことを、単なる新人だとは思っていないからだ。
「インタビューを読んでも、本当に真剣にやってるなと。レスリングの実力に頼ってない。オリンピックのメダリストっていう、モノが違う選手が本気で準備してくるんで、これは相当にヤバい相手だぞと思ってます。チャレンジャーは僕のほうじゃないですか」
ただ、トップアスリートとはいえデビュー戦だ。この世界の叩き上げ、生え抜きが負けてはいけないという気持ちは「メチャクチャあります」。思い出されるのはシドニー五輪のレスリング銀メダリスト、永田克彦のプロ転向当時だ。デビュー戦ではレミギウス・モリカビュチス、3戦目では勝村周一朗。所と同じZSTの叩き上げがエリートアスリートに敗れた。
そんな昔話を振ってみると「じゃあ今回はある意味、レミギウスと勝村さんのリベンジでもありますね」と所。
「太田選手、凄い強いと思います。すぐに朝倉海選手、堀口選手とやるようになるんじゃないですか。でもデビュー戦だけは僕が勝ちたい。それで2戦目から大活躍してくれたら、メチャクチャ応援します(笑)」
リングに上がれば、そこにあるのは2020年12月31日時点での実力だ。現実そのものと言ってもいい。だがその現実を闘う上で、所が背負っている“歴史”が力になる可能性もある。少なくとも、彼自身の気持ちがそれで頑丈さを増す。
「僕たちが勝つことで、元気になれる人たちがいる」
今回の大晦日は、所だけでなくミノワマン、五味隆典と00年代前半の格闘技ブームを知る選手が参戦する。決して“昔の名前頼みの客寄せパンダ”ではない。若い選手たちが自分たちの時代を確立したからこそ、ベテランの踏ん張りにも感情移入できるのだ。
「僕たちが勝つことで、元気になれる人たちがいると思うんですよ。若い人たちではないかもしれないけど。そういうこともあるから、頑張らなきゃって」
総合の試合は「毎回、これが最後という覚悟」だという。その一方で「試合で極めてみたい技があるんです」とも言う。チキンウィング・アームロック。ファン時代に憧れたヴォルク・ハン、いま練習をともにする桜庭和志に共通する得意技だ。
「僕はまだアームロックで勝ったことがないんですよ。現役を終わるまでに1回、極めたくて」
キャリア60戦近くなって「まだ経験していない勝ち方」があると目を輝かせるのだ。彼にとっての格闘技が惰性ではない証拠だろう。だから、何歳になろうが所英男には期待したくなる。