新しい世代の人たちは全体的に伸びるのが早い

　43歳、プロキャリア19年のベテランは、今のMMA、今のRIZINをどう見ているのか。

「凄い選手がどんどん出てきてますよね。この人が最強だろうって思ってた堀口さんが（朝倉海に）負けたり、僕より少し下の世代の日沖（発）さんとかリオン（武）さんも（朝倉未来に）負けて。ビックリしちゃいますよ。新しい世代の人たちは全体的に伸びるのが早い感じがしますね。子供の頃からいろいろ見て、技術も知ってるんですかね」

　かつてのような“異種格闘技戦”の場としての総合格闘技ではなく、今はMMAという1つの競技。テクニックもセオリーも整った状態から学び始めることができる時代なのは間違いない。

　対して所は、このジャンルの変遷、成熟とともにキャリアを重ねてきた。“育ての親”とも言える団体ZSTで、所はグラウンドにおける顔面パンチ禁止のルールで闘っていた。そのルールで得意の寝技を磨くことができたし、当時は今よりはるかに多様なルールが混在する時代だった。

　自分はその時代の“生き残り”だという意識が所にはある。カード発表記者会見で「僕は冷凍人間」だと所は言った。それは「堀口戦から力は落ちてない」と自分を鼓舞するための言葉であり、またプロレスラー・鈴木みのるの存在も念頭にあったという。

「鈴木さんがパンクラスからプロレスに戻ってきた時のこと（2003年）が頭にあって。凄くカッコよかったんですよ。平成の新日本プロレスに“昭和”の匂いがするレスラーが乗り込んできた感じでしたよね」

令和のMMAマットに“平成の総合格闘家”として

　それと同じように（と表現すると謙遜するだろうが）、所は令和のMMAマットに“平成の総合格闘家”として上がるつもりだ。

「2020年に昔のZST、HERO'Sからいきなり選手が出てきた、みたいな。いま僕、自分がやってることを総合格闘技って（古い言い方で）呼んでるんですよ、MMAじゃなく」

　単なる懐古ではない。自分のファイトスタイルを見直した結果でもある。MMAではオールラウンダーが当たり前。所もMMAとしての闘いを志向した時期があったが、うまく結果が出なかったという。そこで「無理にみんなと同じ闘い方をしなくていい」と思うようになった。彼の根本的な武器はグラウンドでの運動量と“極め”の強さだ。現代MMAのリングでも、多少偏りのある自分らしいスタイルで闘ったほうが力が出せる。もちろん技術の向上があった上で、だ。

【次ページ】　対戦する太田に「デビュー戦だけは僕が勝ちたい」