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「何と戦っているんだ」なぜ萩野公介はこの言葉で変われたのか…リオ五輪金メダリストの復活
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKYODO
posted2021/01/03 11:00
東京アクアティクスセンターで行われた競泳の日本選手権、男子400m個人メドレーを4分13秒32で制した萩野公介
「子どもに戻ったな、と思います」
期間中に糧も得られた。松元克央を指導する鈴木陽二コーチから、「(昨年の世界選手権6冠の)ドレセルでも力んでないのに、力んでるよ」とアドバイスされたのだ。2015年に右肘を骨折して以来、「肘を守ろうとして肘から先が固まっていた」ことに気づいた。
そうした時間を経て迎えた日本選手権ではレース前に思った。
「まずは環境に感謝したい。ほんとうに今は最高に幸せだなって」
もはや、泳ぐたびに苦しそうな表情をし、泳ぐことが苦しそうな時期とは一線を画していた。次の言葉もそれを示唆する。
「子どもに戻ったな、と思います。勝ち負けを意識して体が硬くなったりするのではなく、自分が全力を出すことから話が始まります。純粋に水泳を楽しんでいます」
大会ののち、所属のブリヂストンによるオンライン・トークイベント『ドリームスタジオ by チームブリヂストン』に出演。いきものがかりの水野良樹と対談した。
「どれだけ自分の泳ぎで自分の人生を表現できるか」
「オリンピックが延期になったことはすべてのアスリートにとって大きなできごとで、すごく大きな転換期でした。何を次に目標にしたらいいか、いちから考える1年だったと思います。こういう時期だからこそ、人とのつながりが感じられたし、『頑張って』と言われると、前よりも素直に頑張りたいという気持ちになれました」
これからの夢をテーマにしたやりとりでは、こう語った。
「どれだけ自分の泳ぎで自分の人生を表現できるかです」
オリンピックが延期になっていなければ、もしかしたらチャンスはなかったかもしれない。1年前の状態はそれほどに苦しかった。
でも1年延期になった時間を無駄にしなかったのは萩野自身だ。周囲の支えがあったのも萩野だからだ。
視界良好。そう言えるところまで立ち戻った、いや、泳ぐことの原点を取り戻した萩野は、人生をかけて、レースに向かっていく。