SCORE CARDBACK NUMBER
“モチベーション低下”で長期休養の萩野公介が完全復活へ「1年前は泳ぎよりも自分の内面ばかり考えていた」
posted2021/01/11 17:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Asami Enomoto
エースがとうとう完全復活のスタート台に立った。12月上旬、東京五輪の競泳会場となる東京アクアティクスセンターで行なわれた競泳の日本選手権で、'16年リオデジャネイロ五輪金銀銅メダリストの萩野公介(ブリヂストン)が200mと400mの個人メドレー2冠を達成。2年ぶりに出た大会で参考記録ながらいずれも東京五輪の派遣標準記録を上回り、「200は会心のレースだった」と表情をほころばせた。
リオ五輪で金メダルに輝いた初日の4個メは、バタフライで伸びを欠いて自己ベストより約7秒遅い4分13秒32にとどまったが、3日目の2個メでは課題を改善した。五輪や世界選手権の決勝進出ラインに近い1分57秒67で泳ぎ、再び世界を見据える水準まで戻ったことを示した。
スピード、体力、レース勘。多くの要素を取り戻してきた中でも、'19年3月に「モチベーション低下」により長期の休養を取った萩野にしてみれば、闘志が再び湧き出るようになったことが最大の収穫だろう。2個メでは首位でターンして迎えた最後の自由形で「負けたくない。絶対に勝ちたい。その気持ちで泳いで勝てたので、タイムよりもそこを喜びたい」と胸を張る。
「最近は全力を出すことから話が始まると思っている」
技術面については、'15年6月に骨折し、リオ五輪後の'16年9月に手術を行った右ひじ痛の影響から解放されつつあることを上昇理由に挙げた。「ひじを痛めてからは防衛本能でひじを守ろうとして、手先に力みが入るようになっていた。最近はリラックスして水をキャッチできるようになっている」と語る。
レース後は、「子どもに戻ったな」と笑みを浮かべた。「1年前は泳ぎよりも自分の内面ばかり考えてつらさがあり、自分自身で負けてしまっていた。最近は全力を出すことから話が始まると思っている。負けるにしても、自分から降りて負けるのではなく、100%を出し切る」
個人メドレーは2種目で瀬戸大也が東京五輪代表に内定しており、残りは1枠。'21年春に予定されている日本選手権で権利をつかまなければならないが、新生・萩野に恐れはない。「今回のこのタイムじゃ世界とは戦えないけど、自信にはなる。東京五輪に向けて軸がぶれずに矢印が向いているのが一番大きい」。トンネルを抜けた男の声が力強く響いた。