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【トライアウト】身重の妻のため投げた23歳、2度目戦力外の松坂世代、兄・由規の「諦めるな」 引退瀬戸際の男達
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byNanae Suzuki
posted2020/12/29 11:07
シーズン後の“風物詩”となった感のある12球団合同トライアウト。そこに挑む選手の人間模様はさまざまである
<名言2>
育成でもなんでもいいんで、もう1回NPBに戻りたいです。
(佐藤貴規/NumberWeb 2015年11月25日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/824590
◇解説◇
新庄剛志のトライアウト挑戦でも話題になったが、トライアウト後、NPBでの現役続行もしくは復帰に向けての審判期間は「1週間」だといわれている。その期間で連絡が来なかった選手の気持ちを慮れば、あまりにも切ない。それでも「翌年のトライアウト」までモチベーションを持続させたのは、貴規である。
貴規は2020年のトライアウトを受験した由規の弟である。2010年の育成ドラフトで、当時兄が所属していたヤクルトに育成選手契約で入団した。ネットでは「兄貴のコネで入団した」という陰口があった中、2012年と14年には二軍ながら打率3割をマークするなどバッティングに光るものを見せた。ただし課題の守備のスローイングが安定するどころか“投球恐怖症”となってしまった結果、2014年限りで戦力外通告を受けた。
その年のトライアウトを受けて野球にひと区切り――となるはずだった貴規だが、2015年、当時BCリーグに新規参入した福島ホープスへの入団を決断した。
「野球をやらないと申し訳がなくて」
こう言った貴規の原動力は、兄の存在だったという。当時の由規は右肩のリハビリに取り組んでいる真っ最中だったが「諦めるな」との涙の説得に引退を翻意したのだ。
迎えた1年後のトライアウト、貴規は4安打を放つ活躍を見せた。その翌年も3度目のトライアウトに挑戦したものの、声がかかることはなかった。それでも兄からの励ましで、野球を長く続けられたことは確かだ。
なお現在の貴規は野球用品販売会社で働きつつ、同社のYouTubeチャンネルで“ユーチューバー”となったという。