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“いい人ぶらない”渋野日向子の自然体な復活劇 「笑顔の暗殺者ね」と元世界1位が称えたワケ<全米女子4位>
posted2020/12/15 12:30
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Getty Images
17番のグリーン脇で渋野日向子はしばらくじっと固まったように動かなかった。
カップに届かなかったボールをさっと拾い上げ、深くうつむきながらこう思っていた。
「……ダサいな」
最終日を1打差の単独首位から出たものの、10番でその座を明け渡すと、17番パー3を迎える頃には韓国のキム・アリムに2打差をつけられ、あとのない状況に追い込まれていた。
追いつくためには残り2ホールで連続バーディーを奪うしかない。だが、乾坤一擲の12mのバーディーパットを打ちきれなかった。カップに届かせることすらできなかった。
「バーディーを取るしかない17番であのショートは本当にありえない。優勝争いをしている中ですごく情けなかった」
事実上の終戦を迎えた瞬間、渋野は悔しさに打ちのめされていたのだった。
「自分でも怖いぐらい」ショットが好調
テキサス州ヒューストンのチャンピオンズゴルフクラブで行われた全米女子オープン。渋野にとってメジャーで2度目の優勝争いの舞台に、“スマイリングシンデレラ”となった2019年の全英オープンのような、おとぎ話の世界は広がっていなかった。
新型コロナウイルスの影響で異例の12月開催。本来の開催時期である6月だったら青々としていたはずの芝や木々に色はなく、コースの難しさだけでなく、凍える寒さも選手を苦しめた。メジャーでも屈指の難コースに立ち向かう勇気と熱気をもたらしてくれるはずの観客の姿も今年はなかった。
荒涼とした“戦場”には、ハイタッチも、モグモグも、入り込む余地はない。渋野も笑顔はそこそこに険しい表情で戦い、本人も「奇跡」と呼ぶほど快調にスコアを伸ばしていった。予選ラウンドは「自分でも怖いぐらい」というほどショットが好調。パーオン率は全体2位の81%をマークし、予選2日間を終えて2位に3打差をつけて首位に立った。