フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
強敵ロシア勢も上回り、坂本花織が今季女子最高点! 「トータルパッケージ」の時代がやってきた?
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byYukihito Taguchi
posted2020/12/10 11:25
国内ジャッジによる参考記録だが、グランプリ4戦を通じて坂本が今季女子の世界最高得点でNHK杯を制した
北京五輪で世界と戦うためのトリプルアクセル
「今回初めて、2日間連続で試合にトリプルアクセルを入れることに挑戦しました。ショートはまだ練習量が少なかったので迷う気持ちもありましたが、来季や全日本選手権に向けて良い経験になりました」
初成功がゴールではなく、北京五輪で世界と戦うためのトリプルアクセルなのだということを、改めて感じさせてくれる言葉だった。
日本勢が着実にレベルアップをするなか、今季、大きな潮流の変化といえばロシア女子の“波”だ。昨季は、シニアに上がったばかりのコストルナヤ、トゥルソワ、そしてアンナ・シェルバコワの“3人娘”が、4回転やトリプルアクセルを武器に、国際大会の表彰台を独占。「女子にも4回転時代が到来」と言われ、ロシア女子に勝つ術はないとさえ思われた。
変化を迎えた今季のロシア3人娘
ところが今季、コストルナヤとトゥルソワは、エフゲニー・プルシェンコのチームに移籍し、まだ環境に慣れないためか、調子は万全ではない。
コストルナヤはトリプルアクセルを封印し、男子のような飛距離があった3回転フリップ+3回転トウループも、勢いを抑えて確実に跳ぼうとしている。
トゥルソワは、ショートはトリプルアクセルで転倒、フリーも4回転のミスが多く4位に留まった。
シェルバコワは肺炎のためにGPロシア杯は欠場となったが、参考になるのは国内大会・ロシアカップ第3戦だろう。フリーでは4回転フリップを成功し、239.91点で優勝した。ロシア独自のボーナス点を差し引くと233.91点だが、いずれにしても高得点だ。去年は4回転ルッツを得意としていたが、今季はフリップに照準を合わせているのが興味深いところ。成長にともなう身体の変化に合わせて、違う種類に変えながらも4回転をキープしているのは流石である。
3人娘が試行錯誤するなか、ロシア杯を制したのは23歳のトゥクタミシェワ。
トリプルアクセルが絶好調で、ショートで成功、フリーもトリプルアクセル+2回転トウループの連続ジャンプを成功させた。この勝利は、4回転ではなくトリプルアクセルだけで優勝できるという意味でも、またベテランの演技力が評価されたという意味でも、とても重要な勝利だった。
またスケートアメリカは、3回転までのジャンプで大きなミスなく演じ切ったマライア・ベルが212.73点で優勝し、同じくミスを最小限に留めたブレイディ・テネルが211.07点で2位だった。
グランプリ4戦を通じて見えたのは、今季の女子のカギは“トータルパッケージ”で高得点を稼ぐか、“トリプルアクセルを武器”に存在感を示していくか。もはや4回転で話題になるのは、ジュニアや更に低年齢の選手ばかり。北京五輪に向けて、現実的な大人の戦い方が少しずつ見え始めている──。そう感じさせるグランプリ4戦だった。