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「マラドーナの表紙を作るために、僕は…」ディエゴは危なっかしくて、未熟で、魅力的だった
posted2020/12/04 11:00
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph by
Getty Images
身長が同じで、誕生日が6日違い。たったそれだけで、やたらとサッカーが上手い7つ年上のアルゼンチン人に、勝手に親近感を覚えていた。
残念ながら左利きではなかったし、スパイクを『プーマ』に替えても、ペロッと舌を出しながらマーカーをかわしていくドリブルを真似してみても、決して同じようにはプレーできなかったけれど、僕にとって人生で初めてのアイドルは、間違いなくディエゴ・アルマンド・マラドーナだった。
上手いだけでなく、速く、強かった
中学生の頃、教室の机の上には、河合奈保子さん(2番目のアイドルだ)の缶ペンケース(若い人は知らないだろうけど)と、ボカ・ジュニオルス時代のマラドーナの切り抜き写真が挟まった下敷きが、いつもセットで置かれていた。
まるで磁石のように足に吸い付くトラップと、相手の勢いを利用して、軽やかなステップで逆を取るドリブル。テクニカルな部分が強調されがちだけど、単に上手さだけなら、同じ時代を生きたジーコやミシェル・プラティニも遜色はなかっただろう。
だが、とくに20代前半のマラドーナは、それこそ抜群に速くて、体幹の強さも人並外れていた。ファウル覚悟のタックルにのたうち回る姿を思い浮かべる人も多いかもしれないが、ここぞという場面では強靭な下半身で持ちこたえ、決して倒れることはなかった。
それだけではない。多くの人がマラドーナに惹きつけられたのは、その内面にギラギラとした野性と、ガラス細工のような繊細さを見たからではなかったかと思う。
美しさと強さと危うさが同居する稀有なフットボーラー、それがマラドーナだった。