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マラドーナに「テコンドー」と揶揄された韓国サッカー 86年メキシコW杯で生まれた因縁と勲章
 

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キム・ミョンウ

キム・ミョンウKim Myung Wook

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photograph byGetty Images

posted2020/11/28 11:01

マラドーナに「テコンドー」と揶揄された韓国サッカー 86年メキシコW杯で生まれた因縁と勲章<Number Web> photograph by Getty Images

1986年6月2日、メキシコW杯アルゼンチン対韓国。マラドーナに厳しくチャージを仕掛けるホ・ジョンム

85年生まれのイ・グノ「検索して調べた」

 こうしたやり取りを日本から熱心に見ていたジュビロ磐田のイ・グノは、インターネットを通してその情報を得ていた。

「86年大会のことやホ・ジョンム監督がマラドーナと対戦していたことを知ったのはここ1年のことです。そこからポータルサイトの検索窓に『ホ・ジョンム』って入れて、色々調べるようになりましたよ(笑)」

 6月1日に発表された23人のワールドカップ最終メンバーにイ・グノの名前はなかった。だが、30人の登録メンバーに選ばれた直後の5月に会った時は、そう言ってリラックスした表情を見せていた。

 85年生まれのイ・グノには、86年大会の記憶はない。彼の頭の中にメキシコ・ワールドカップでアルゼンチンを優勝に導いたマラドーナの面影はなく、「最近になってハイライト映像で見た程度」だという。もちろん、代表で指導を受けたホ・ジョンムの過去の経歴を知る由もない。

「強烈なタックルをマラドーナに浴びせていたことは、当時の記事と写真で知りました。確かに昔は恐ろしい存在だったとよく耳にしますが、今ではそんな雰囲気を微塵も感じさせません。練習中に何度も選手と意思疎通を図り、チームの結束を高めるために溶け込もうと努力をしています。だから選手たちは監督を本当に信頼していますよ」

 イ・グノはそう評したあと、自身の幼いころのワールドカップの思い出を語り始めた。

「僕が初めて見たワールドカップは94年のアメリカ大会です。当時は小学2年生で、家族と一緒に興奮しながら見ていましたよ。イタリアのバッジョ、ブラジルのロマーリオ、ルーマニアのハジなんかもすごかったですよね。あとはドイツのクリンスマンも強く印象に残っています。当時のアルゼンチンと言ったらバティストゥータですよ。マラドーナは確かに世界最高のサッカー選手だと思いますが、僕には印象が薄い。だから86年大会の韓国代表のことも、よく分からないんです」

日本を破って出場を決めた32年ぶりのW杯

 86年メキシコ・ワールドカップ。それは韓国サッカー界にとって、新たな1ページを刻んだ歴史的な大会だった。韓国代表は85年の東アジア地区最終予選で、森孝慈監督率いる日本代表を相手に東京・国立競披場で2-1、ホームのノウルで1-0と2連勝を飾り、54年のスイス大会以来、32年ぶり2度目の本大会出場を決めた。日本では木村和司が国立で決めたフリーキックが伝説として語り継がれているが、韓国は悲願の本大会出場を手にした歴史的快挙として、国中が沸いた。

 ただし、メキシコ大会に出場した24チーム中、韓国はもっとも評価が低かった。しかも、グループリーグで優勝候補のアルゼンチンとイタリア、東欧のダークホース・ブルガリアと同居する厳しい組に入ってしまう。初戦のアルゼンチンに1-3で敗れたあと、雨が降るなかで行なわれたブルガリア戦は、先制されながらも1-1のドローに持ち込んだ。

 そして、3戦目の前回大会覇者イタリアには、FWチェ・スンホが強烈なミドルシュートを決めるも、2-3で惜敗した。韓国代表を率いたキム・ジョンナム監督は、「国際大会の経験不足とそこからくる選手たちの緊張と不安があった」ことを認めた。

「たしかに韓国人選手の緊張感は、試合を見ていてもひしひしと伝わってきましたよ」

 86年大会で韓国代表を取材したパン・ソクスンは、85年に創刊された韓国スポーツ紙『スポーツソウル』のサッカー担当記者で、当時を知る数少ない人物の一人だ。

「2度目のワールドカップ出場は大きな関心事で、当然、私も取材意欲に燃えていました。相当な経費を使って、本大会前の遠征から代表チームを追いましたよ。メキシコ人は韓国代表に対して、とても好意的でした。選手たちが登場すれば歓迎ムード一色。メキシコ人はアジア人と少し外見が似ているので、親近感があったのでしょう。韓国人でないのに、東洋人を見ると『アミーゴ!』と声をかけている人もいましたよ」

 だが、現地の歓迎ぶりとは裏腹に、韓国代表は常に不安にかられていたという。

「54年大会で韓国はハンガリーに0-9、トルコに0-7で大敗していますし、今大会も二の舞になるのではと心配していました。相手の情報がまったくないうえに、自分たちの実力が世界のどのレベルにあるのか、はっきりと見えてきませんでしたから、監督も選手も不安だったと思います」

【次ページ】 万全の準備で迎えたアルゼンチン戦

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