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大山加奈が不妊治療の全てを明かした「キャリアと自分の人生、両方を手に入れられる社会になってほしい」 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byAP/AFLO

posted2020/11/12 11:02

大山加奈が不妊治療の全てを明かした「キャリアと自分の人生、両方を手に入れられる社会になってほしい」<Number Web> photograph by AP/AFLO

学生時代からバレーボールに全てを懸けてきた大山加奈。自分の身体のことを改めて知ったのは現役を引退した後のことだった

現役時代に何度も飲んだ痛み止め

 入籍から間もなく、インターネットでさまざまな情報を集め不妊治療のクリニックにも通い始めた。排卵のタイミングに合わせるタイミング法からスタートし、並行して鍼や漢方、「妊娠しやすい身体になる」とテレビや雑誌で報じられたよもぎ蒸しや月経時の布ナプキン、さらには1クール30万円するようなデトックスサロンにも行った。

 藁にもすがる思いで民間療法も片っ端から試したが、妊娠には至らず。毎月生理が来るたび落ち込む日々が続いた。ただ、卵巣年齢に限らず、自身の不妊には他にも思い当たる理由があったと振り返る。

「現役時代はとにかくたくさんの薬を飲んでいました。痛み止めのボルタレンは何錠も飲むのが当たり前。それにプラスしてアテネ(五輪)の直後から精神的にも不安定で自律神経が乱れ、毎日寝られなかったり、人前に出ると尋常じゃない汗やめまい、動悸がひどくて倒れてしまったこともあったので、JISS(国立スポーツ科学センター)のドクターに診察してもらい、処方された精神安定剤を5年ほど飲み続けていたんです。基礎体温もとにかくガタガタで、35度台は当たり前で34度台も珍しくないし、お腹やお尻がいつも冷たかった。不妊治療中も病院の先生から『腰にメスを入れた影響かもしれないね』と言われたことがありました」

誰にも相談できず、仕事では子供たちと触れ合う

 医師からの助言もあり、治療開始から1年が経つ頃にタイミング法から人工授精に切り替えた。だが、それでも効果が表れなかったため、さらに1年が過ぎた頃に体外受精へ移行。身体的、経済的にもタイミング法や人工授精とは比べられないほどの負担が加わった。

「いい卵をつくるために高刺激の治療をするので、ホルモンバランスが崩れて卵巣が腫れて痛いし、精神的にも不安定になる中、自分で注射もしないといけない。お腹の痛みや、注射をする時に味わう恐怖を感じるたびに思うんです。苦労もせず何人も子どもを授かっている人もいるのに、どうして私だけこんな思いをしなきゃいけないんだろう、って。しかも一度体外受精をすれば1カ月で60~70万円かかるし、お医者さんの中には『仕事なんかしないで不妊治療に専念しなさい』と言ってくる人もいる。同じ頃に友達から、“妊娠した”“赤ちゃんが産まれた”と連絡をもらうたび、心からおめでとうと言うことができない自分が嫌で嫌で仕方がなかった。気持ちも、身体も限界でした」

 排卵のタイミングによって、「今すぐ病院に来て下さい」と言われることもあれば、診察室でいつ名前が呼ばれるかと3時間以上待たなければならない日もある。当時は不妊治療をしていることを口外していなかったため、苦しくても周囲に相談できなかった。

 それでも仕事になれば笑顔で、時には子どもたちとも触れ合う。質問コーナーで「加奈さんは子どもいますか?」と聞かれたり、「加奈ちゃんならきっといいお母さんになれるのに」と言われるたび、少なからず傷ついたが、相手に悪気はない。“気にしない、気にすることなどない”、そう自分に言い聞かせてきたが、バレー教室後の食事会の席で、子どもができないことを冗談交じりに茶化された時はさすがに涙が出た。悔しさと悲しさが抑えられず、周囲から「ああいう人だから気にしないように」と言われても、もう無理だった。

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