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大山加奈が不妊治療の全てを明かした「キャリアと自分の人生、両方を手に入れられる社会になってほしい」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byAP/AFLO
posted2020/11/12 11:02
学生時代からバレーボールに全てを懸けてきた大山加奈。自分の身体のことを改めて知ったのは現役を引退した後のことだった
「努力次第で夢は叶う」と思っていた
ようやく採卵できた卵子を受精させ、体内に戻したが妊娠には至らなかったショックが重なったこともあり、開始から3年が過ぎた2017年、不妊治療をやめた。
現役時代は努力次第で夢は叶う。そう思っていた。
実際小学生からバレーボールを始め、中学、高校、Vリーグとすべてのカテゴリーで日本一を経験し、日本代表にも選出され、オリンピックにも出場した。為せば成るとばかりに前進してきた大山にとって、初めての「頑張っても叶わないこと」。それが妊娠であり、ゴールの見えない不妊治療だった。
「何が何でも絶対に目標を達成する。だからそのために必死で頑張る。今までの人生はずっとそうだったんです。でも、不妊治療はそうじゃない。絶対に子どもを授かるまで頑張ると思い込んで、時間やお金を費やして毎日過ごすべきなのか。でもそれで本当に叶うのか。今までの人生とはあまりに違いすぎて、どうしたらいいのかわからなくなりました」
心を楽にしてくれた「だいず」
転機が訪れたのは、不妊治療をやめた直後の2018年。「だいず」と名付けたオスの柴犬を飼い始め、愛犬の“お母さん”として過ごすうち、ごく自然に心が楽になった。周囲の妊娠や出産を喜べるようになり、自身は子どもが授かれなかったとしても愛犬を交えた家族との生活、養子縁組も視野に入れ、自分は自分でいいと思えるようになった。
心の片隅には「自分の子どもがいたらどれだけかわいいのか感じてみたい」と願う気持ちがあったのも事実だが、無理に治療はしなくてもいいと考えていた。
自然体で過ごすうちに授かることができたら、と思っていた2020年初旬。コロナ禍で多くの仕事がキャンセルになった。ほぼひと月何もせずに過ごすのなら、時間を有効に使おう、もしも授かれなかったとしても諦められるかもしれない、と以前より軽い気持ちで不妊治療を再開すると、間もなく妊娠。2つの受精卵が着床し、双子を授かった。