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【ソフトバンク優勝】「君にホークスの19番を…」初の“胴上げ捕手”甲斐拓也が胸に秘めるノムさんの言葉
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2020/10/28 17:01
10月27日のロッテ戦で勝利し、守護神・森唯斗のもとへ駆け寄った甲斐拓也
打たれれば甲斐が悪い、フォアボール連発でも甲斐のせい、負ければキャッチャーが敗因と何度も叩かれた。だけど勝った試合では抑えた投手が褒められる。
ホークスの3年ぶりのリーグ優勝の大きな原動力となったのは間違いなく投手陣を中心とした守りだ。チーム防御率2.96で優勝のゴールテープを切った。パ・リーグのチーム防御率2位のマリーンズが3.90でその他4球団は軒並み4点台だ。ディフェンス力の差は歴然だった。
その数字について甲斐に問うてみた。
「それは本当にピッチャーが頑張ってくれたから。ピッチャーの力がないと出来なかった」
「君に(ホークスの)19番をつけてほしい」ノムさんの教え
甲斐の理想捕手像は、今年2月に亡くなられた故・野村克也氏だ。教えや考えが記述された本を読み漁った。野村氏はその姿勢や自身と境遇が似ていることから甲斐をとても気に入っていた。「君に、(ホークスの)19番をつけてほしい」。そして、甲斐は今年から背番号19に変えた。
「いろんな話をしてもらいましたが、僕がキャッチャーにとって一番大切なものは何ですか、と尋ねた時の言葉は今も大切にしています。捕手はピッチャーを支える存在。『功は人に譲る』。そういうポジションだから、と」
だから抑えればピッチャーのおかげ。打たれれば責任は自分が背負い、投手には次も気持ちよく投げてもらうために何をすべきか考えた。
「正直ナニクソの気持ちで……」
だけど、甲斐だってまだ20代の人間だ。周りに見えないところで、どれだけ悔しい思いを抱えて、歯を食いしばって日々を過ごしてきたか。
投手を称えながらも、ふと本音で、言葉を継いだ。
「防御率1位といっても、負ければ(周囲から)言われますし。そこは自分の中で受け止めて、正直ナニクソの気持ちでやってきました」
「あー、これがホークスのチームメイトなんだ」
この2020年は、どんな一年だったのか――。