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Excelを見ながら計算機で足し算する男・高木義成がサラリーマンを辞めて、GKの指導現場に戻った理由 

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石倉利英

石倉利英Toshihide Ishikura

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photograph byYoshinari Takagi

posted2020/10/29 17:00

Excelを見ながら計算機で足し算する男・高木義成がサラリーマンを辞めて、GKの指導現場に戻った理由<Number Web> photograph by Yoshinari Takagi

今年の9月から日体大GKコーチに就任。現役引退後のサラリーマン生活で体重が増えた、と笑った

38歳のルーキー、慣れないことばかり

 38歳から始めたサラリーマン生活。社会人としての常識を学ぶ上での失敗は、一度や二度ではなかった。

「名刺はどうやって渡すのか。ドアが閉まっている部屋は何回ノックして開けるのか。こちらはルーキーのつもりでも、周りには『38歳にもなって』という目で見られますからね」

 チームジャージーの集計表作成に必須のExcelも、初めは使い方が分からなかった。関数を設定すれば、数値を入れるだけで合計数を算出してくれるのに、初めは設定せずに数値だけ入れて、それを見て計算機で足し算していた。

 関数を設定してからも「頑固なので『Excelが信じられないから、検算する方がよくない?』と言って、やっぱり計算機で足していました」。それを見て年下の先輩社員は「高木さんがそれでいいなら、いいんじゃないですか」と呆れた。

 GKとしてはミスをしないことを心掛けていたが、社会人としては「恥をかいた方がいいと思っていた」。常にメモ帳を持ち歩き、分からないことはすぐにメモした。「引退後に『元Jリーガーです』と言っても、ほとんどの人が『あ、そうですか』で終わる世界」で、多くのことを学んでいった。

在宅勤務が増える中、考えたこと

 新しい生活が始まって2年が過ぎた今年3月、選手の代理人を担当する部署に転籍。ところが新型コロナウイルスの影響から在宅勤務が増え、それを機に現役時代から考えていたことを実現したいと思うようになった。

「日本のGKを何とかしたいという思いがあったんです。GKをピラミッドにすると、半分から上くらいは育成年代でもGKコーチがいるでしょう。でもGKコーチの指導を受けていない選手や、正しい知識を得たいと思っているGKに、自分の経験と声を届けて、日本のGKを底上げしていきたいと考えていました」

 セービングしても痛くない天然芝グラウンドの少なさなど、ハード面も含めて、GKの育成環境が整っていないことは、楢﨑や川口能活とも話し合っていたという。それを少しでも変えていくために、一念発起して8月末で退社。9月から前述の通り、日体大のGKコーチとして自身の経験を伝えている。

【次ページ】 新会社設立、高木式メソッドを発信

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