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「『ラストサムライ』を観たか?」「オーのバットを持ち帰って……」MLB殿堂入り選手たちの“素顔”
posted2020/10/18 17:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Getty Images
「失礼だが、キミは日本人かね?」
そう声をかけられたのは、2004年の夏、ボストンのフェンウェイパークでのことだ。よく通る声に思わず、背筋が伸びた。声の方を振り向いて「Yes, I am.」と答えると、椅子に腰掛けた全米テレビ中継のクルーを代表するように、大きな瞳の「その人」は、真顔のままこう続けた。
「キミは『ラスト サムライ』を観たか?」
まさか声をかけられるとは思ってもいなかったので、かなりビビりながら「Yes, I did.」と答えると、「その人」はこう続けた。
「あの白人の子がサムライの一員になるっていう部分はいいとして、もしも彼が真のサムライになったのだとしたら、彼は最後の戦いで生き残らず、サムライのリーダーと共にあの戦場で死ぬべきだったと思ったんだが、キミはどう思う?」
唐突な問いかけに何と答えたのか、実は記憶にない。覚えているのは彼がそれから、イチローの話をしたことだ。彼はイチローのプレー・スタイルが、ジャッキー・ロビンソンに代表される元ニグロリーガーの野球、つまり、相手を上回るぐらい考え抜いて、打って守って、走ることを想起させると説明し、「それこそがベースボールなんだよ」と力強く言った。
MLB史上もっとも万能的な二塁手
その人=ジョー・モーガンさんが10月11日、77歳で亡くなられたと聞いてすぐ、そのことを思い出した。22年に及ぶ長い現役生活で通算2517安打、通算10度のオールスター選出、通算5度のゴールドグラブ賞を獲得した名選手だが、首位打者や本塁打王、打点王と言った打撃部門の主要タイトルとは無縁だった。それでも1975年から2年連続ナ・リーグ最優秀選手賞に選出され、亡くなられた当日にはMLBネットワークなどで「MLB史上もっとも万能的な二塁手」と称賛されたのは、彼の「全盛期」と見られている1972年から1977年までの6年間の平均成績が打率.301、出塁率.429、長打率.495、118四球、60盗塁と群を抜いていたからだ。
モーガンさんは「禁止薬物を使って相手を欺いた連中に殿堂入りする資格はない」とドーピング検査の結果に関わらず、言い切った人であり、セイバーメトリクス(野球の統計分析学)が算出する失敗確率に基づいて盗塁やバントなどの小技を破棄した「マネーボール」に対しても真っ向から反論した人だった(皮肉なことに彼の全盛期のセイバー系の数値WAR53.6 Runs Created780、wRC+162などは同時期の最高を記録している)。