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「『ラストサムライ』を観たか?」「オーのバットを持ち帰って……」MLB殿堂入り選手たちの“素顔”
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2020/10/18 17:00
22年に及ぶ長い現役生活で通算2517安打、通算10度のオールスター選出、通算5度のゴールドグラブ賞を獲得したジョー・モーガン
モーガンさんと話してもっとも印象に残っているのは、実は映画のことやイチローの話ではなく、その思慮深い態度だった。こちらが当時は取材現場に珍しい日本人であるという事実を知りながら、彼はそれまで私が現場でたびたび遭遇した「日本人ってのは、こういう人種だろ?」などという決めつけるような態度を一切、見せなかった。
「キミは何年生まれなんだい?」
9月6日に81歳で亡くなられたルー・ブロックさんにもそんな雰囲気があった。主にカージナルスなどで通算3023安打を記録し、1977年にはタイ・カッブが持つ通算892盗塁記録を破り、1974年のシーズン118盗塁など通算8度のナ・リーグ盗塁王となって、通算938盗塁のメジャー記録(著者注:後にリッキー・ヘンダーソンが1406盗塁で大幅更新)を打ち立てた殿堂入り選手である。
ご本人に会ったのは1998年の夏、アイオワ州シダーラピッズという田舎町にある「カーネルズ」というマイナーリーグ球団が催したチャリティーイベントでのことだった。マイナー公式戦のオフ日に開催された慈善事業絡みのイベントは、朝から野球教室(子供のためではなく、往年のメジャーリーガーに憧れている大人のため)やサイン会、トークショーなどが行われ、最後に野球教室に参加したアマチュア選手と、ブロックさんとファーガソン・ジェンキンスさん(元カブス)という二人の殿堂入り選手を含む元メジャーリーガーのチームとのミニゲーム対決でフィナーレを迎えた。
多忙なスケージュールの間を縫って取材の機会を得たのは試合直前のこと。ブロックさんはこちらが日本人だと知ると、こちらが質問する前にこう言った。
「キミは何年生まれなんだい? 1965年? だったら私が日本で野球したことあるとは知らないだろうなぁ」
王貞治の打ち方は「誰も真似できないけど……」
正直に「残念ながら、知りません」と答えると、彼は「君に面白いことを教えてあげよう」と言って立ち上がり、クラブハウスのどこからかバットを持ってくると、その先端をこちらに向けて「分かるかい?」と言った。見るとバットの先端が丸く、くり抜かれている。