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「由伸君、準備始めました」「なんのこと?」トレーナーが明かすドジャース・山本由伸“ワールドシリーズ幻の登板”秘話「献身とか犠牲精神じゃなく…」
posted2026/01/16 17:00
異例の連投劇で、日本人投手初となるワールドシリーズMVPに輝いたドジャース・山本由伸
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Nanae Suzuki
発売中のNumber1134・1135号に掲載の[トレーナーが語る]山本由伸「あの奇跡は偶然ではない」より内容を一部抜粋してお届けします。
ワールドシリーズ第3戦で“まさかの登板準備”
時計の針は午後11時を回っていた。
「これはなかなか終われへんなあ」
矢田修は、バックネット裏の家族席から、いつ終わるとも知れない攻防をのんびりと俯瞰していた。ドジャース対ブルージェイズのワールドシリーズ第3戦は延長17回に入っていた。その時だった。
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「由伸君、準備始めました」
山本由伸の園田芳大通訳からそう知らされ、椅子から飛び上がりそうになった。
「最初は『なんのこと?』と。それから初めて、『あ、山本君おった!』と気づいたんですよ」
マウンドにはすでにこの日10人目の投手、ウィル・クラインが上がっていたが、山本の個人トレーナーを務める矢田でも、2日前の第2戦で完投し、第6戦に先発予定だった山本の登板は頭になかった。
慌ててスタンドから降りていくと、山本はトレーニングルームで体を動かし始めていた。声をかけずに教え子の動きを注視していると、山本が矢田に気づき、言った。
「僕、行けますか?」
「献身的だとか、犠牲的精神じゃなく…」
矢田はエースの心の内をこう慮る。
「本人は行く気やけど、いろんなことを考えたら『僕、行けるんかな?』という不安もあったと思うんです。僕は正直に、『行けるよ。行って欲しないけどな』と答えました。『でも行く気なんやろ?』と聞いたら『ハイ』と言うから、『ほんなら協力するわ』と言うしかないでしょう(苦笑)」
可愛い孫のような教え子にねだられたら、「やめとけ」とは言えない。
遠投などいつものルーティンを行う時間はなかったため、「これとこれだけやって、すぐブルペンに行こう」と伝えた。

