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小5の三竿健斗が買ってもらった内田篤人のユニフォーム ラストマッチで「いろいろ背負わせてごめんね」
text by
池田博一Hirokazu Ikeda
photograph byKASHIMA ANTLERS
posted2020/09/23 11:30
内田にキャプテンマークを渡す三竿。ピッチ上で見てきた背番号2を胸に焼き付け、常勝軍団を牽引していく
「いろいろと背負わせてごめんね」
試合前の選手ロッカールーム。ピッチに向かう直前は、スタッフを含めたチーム全員で円陣を組み、最後にキャプテンがチーム全体に一言かけてからピッチへ向かうのが常だ。
ウォーミングアップを終えて選手ロッカーに戻ると、三竿はいつも通り、試合に向けた準備を進めていた。ふと見上げると、目の前に内田の姿があった。そして、一言。
「いろいろと背負わせてごめんね」
いつもと違う、寂しさに包まれていた三竿の心が動かされた。視界がにじむのが分かったが、こみあげるものを懸命に抑えた。
「泣きそうになって、ちょっと泣いちゃいました。円陣やらないといけないけど、しゃべったらもっと泣いちゃう。だから、“勝とう!”って。それだけ言って終えました。篤人さん、本当によく人を見ているんです。僕に最後まで言わなかったのもそうだけど、やっぱりああいう人に言われる言葉は、他の人とは重みが違うから。いろんな声をかけてもらったけど、やっぱりほめられるといつもうれしかった」
三竿が感じた内田の「覚悟」
三竿はスタメンで出場し、内田はベンチからのスタートとなった。最後と決まっていた内田がピッチ上で示したプレーは、三竿の胸に深く刻まれた。
前半16分、広瀬陸斗が右足を負傷した。急ぎユニフォームに袖を通し、背番号2がピッチに入った。三竿はその姿を見ると、すぐさま駆け寄りキャプテンマークを託した。
「やっぱりスター性を感じました」
これまで見たことのない、覚悟のプレーにピッチ上で心が動いた。
まず前半アディショナルタイムの46分40秒。相手陣地の右サイドで三竿がボールを持つと、内田へ縦パスを通した。ワンツーしようと受けに走ったが、内田は三竿をおとりにして縦へ突破し、クロスをあげたシーンだ。
「右サイドの相手の陣地で、篤人さんにパスを出してワンツーをしようとしたら、股の間を通してスルー。相手と入れ替わって裏に走ってクロスを上げた場面。あのプレーは見たことがなかった。これまでケガを気にしてやっていなかったんだろうけど、やっぱりここぞという大事なときに、本来の力を出していた」
もう1つ、70分17秒。内田は中央の遠藤康からボールを受けた。対峙する相手をスピードで振り切って、グラウンダーのクロスを上げた場面だ。
「あとは、後半に仕掛けてスピード勝負して突破したやつ。僕はあそこで“ああ、人としてかっこいいな”と思った。引退試合という誰もが注目する試合で、自分のスター性を出しちゃう。あれはすごかった。腹をくくっている感じがありましたよね」
憧れの存在は、やはりスターだった。同じプロサッカー選手として、ケガに苦しむ姿を日々見てきた仲間として、改めて本当の凄みを感じた。