サムライブルーの原材料BACK NUMBER
天然氷と銀座3丁目。マリノスや水戸などで16年間プレー、“マムシ”小椋祥平はいま何を?
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshiya Kondo
posted2020/09/06 11:30
“マムシ”、“水戸のガットゥーゾ”などの異名を持つ「略奪系ボランチ」だった小椋氏。コロナ禍の不況にも食らいついて新たなキャリアを構築中だ。
「じゃあ天然氷でも見に行ってみる?」
だがこのときは引退とは考えていなかった。少なくともオファーが来ると信じていたからだ。しかしJ3の2クラブから声は掛かったものの、J2のクラブからはまったく誘いがない。年が明けるタイミングでスパイクを脱ぐとスパッと決めた。
「逆に吹っ切れましたね。あれだけ試合に出て、声が掛からないんだから。J3からのオファーは有難かったんですけど、ガンバ時代にJ3を経験していて1年間、そこでやっていけるだけのモチベーションが保てるかどうか自信がなかった。もう次に進むときだなって」
関係者をはじめ挨拶を済ませた後で1月22日にインスタグラムで引退を報告。だが問題はここからだった。次に何をやるかなんて考えてもこなかったのだから。
あるとき甲府の知り合いから何気なく言われた。
「何をやるか決まってないの? じゃあ天然氷でも見に行ってみる?」
頭のなかにクエスチョンマークが浮かんだ。何だ、天然氷って?
素直に自分がやりたいと思うことを。
引退して時間はたっぷりとある。知り合いに誘われるまま、山梨・北杜市にある八ヶ岳南麓の天然氷をつくる「蔵元八義」の氷の切り出し作業を見学した。
純粋に感動を覚えた。
「山梨にいるのにこういうところがあるのを知らなかったので。マイナス10度以下のなか池に入って氷を取り出して、細い板に滑らせるんです。氷がびっくりするほどきれいで」
切り出しがあると聞くと、北杜市まで足を運んで池に入って手伝うようになった。ヴァンフォーレの元選手とあって業者とも親しくなり、氷を分けてもらえることになった。
そうだ、素直に自分がやりたいと思うことをやってみよう。
分けてもらった天然氷で、かき氷屋さんをやってみる。それが夏に向けた1つの目標になった。ただそれだけで食っていくのは難しい。