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ボクシングで異例の「100万円プレーヤー」が誕生! “投げ銭”成功の理由は逆輸入? 元引きこもり?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/09/03 11:40
逆輸入ボクサー・坂井祥紀は日本ランカーに判定勝ち。異例の「100万円プレーヤー」となった。
打破したかった悲惨な状況。
そもそも石井会長、中屋会長がこのようなイベントを開こうと思ったのは、新型コロナウイルスだけが理由ではない。
井上尚弥(大橋)や村田諒太(帝拳)ら一部のスター選手の試合なら、チケットはそれほど苦労しなくても売れるだろう。ところが通常の興行の場合、チケットを売るのは主に選手だ。選手によってはかなりのチケットをさばく選手もいて、これはプロモーターにありがたがられる。ただし、それは裏を返せば「興行は選手個々の集客力におんぶに抱っこのところがある」(石井会長)ということ。チケットを売れない選手は悲惨なことになり、ひいてはプロモーターも潤わない。こうした現状をプロモーターとして打破したい、という決意が石井会長の原動力になっているのだ。
次はボクシングの格を見せたい。
A-SIGNはこの日、次回の興行を11月5日、墨田区総合体育館で開催すると発表した。今回の成功体験を次に生かすのか? そう問いかけると石井会長は即座に否定した。
「次も同じようにやろうとは思っていません。今回は6回戦の選手が主体だったので、リングの上は真剣ですけど、バラエティーというか、そういう要素があった。ライブ配信もいかにもユーチューブっぽい感じでした。次のメインは伊藤と三代くんですから。ボクシングの格を見せるというか、ライブ配信もよりテレビ中継に近いものにしたいと思っています」
伊藤とは前WBO世界スーパー・フェザー級チャンピオンの伊藤雅雪(横浜光)であり、三代とは無敗の東洋太平洋同級王者の三代大訓(ワタナベ)だ。試合はノンタイトル戦になるが、紛れもなく日本のトップ選手が激突するファン垂涎の好カードである。これにふさわしい舞台を用意するというのが石井会長の考えなのだ。
現状を大きく打破できない閉塞感にコロナショックが追い打ちをかけたボクシング界において、精力的なチャレンジをする石井会長や中屋会長は貴重な存在と言える。彼らをボクシング界の救世主と持ち上げるのではなく、それぞれがそれぞれの立場で時代に即したプロボクシングのあり方を模索することが大切なのだろう。