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井上尚弥の左フックを読み切った、
世界最高のボクシングカメラマン。
posted2019/11/14 18:00
text by
高橋夏樹(Number編集部)Natsuki Takahashi
photograph by
Naoki Fukuda
カメラマン福田直樹は、リングサイドで集中力を高めていた。
11月7日、さいたまスーパーアリーナ。ボクシングWBSSバンタム級決勝、井上尚弥対ノニト・ドネア戦が始まろうとしていた。
通常福田がリングサイドで試合を撮るときには、1ラウンドは両選手の相性や調子を見て、2ラウンド以降に本格的に撮ることが多い。だがこと井上に関しては違う。
「初回から何があるかわからないので、撮るほうも早くからエンジンをかけないといけない。逆に最初から全力で撮れるとも言えます」
福田はボクシング編集者、ライターを経てカメラマンに転身。渡米してキャリアを積んだ。2008年から権威あるボクシング雑誌、リング誌のメインカメラマンを8年務め、全米ボクシング記者協会最優秀写真賞を4度受賞している。
無駄なものが1つもない完璧な選手。
いわば世界最高峰のボクシングカメラマンである福田をして、井上はかつて見たことがない選手なのだという。
「30年以上見てきて、すべてのいいところを集約したような、無駄なものをすべてそぎ落としたボクシング。しかもパワーもあり、完璧なフォームで完璧に仕上げてくる。普通は選手の癖を見て、動きを考えながら撮りますが、井上選手は余計なことを考えずにのめり込んで撮れるんです。まあそのぶん、早く終わってしまったりという難しさもあるんですが」
この試合も、早期決着での井上圧勝を予想する声が大半だった。実際、立ち上がりの井上は好調だった。
「出だしからジャブがよくて、ドネア選手の反応も良かったですが、いい状態なので1、2、3ラウンドは気を抜けないな、と思っていました。両選手の決定打の左フック対決になると思って、左フックに合わせるようなタイミングで撮っていました」