炎の一筆入魂BACK NUMBER
初サヨナラ打で涙のカープ上本崇司。
「こんなに試合に出るのは初めて」
posted2020/09/01 11:40
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
すぐには整理できない感情が、涙となってあふれ出た。
今年、マツダスタジアムで初めてサヨナラ劇で幕を閉じた8月28日。ヒーローとなった上本崇司は笑顔のチームメートの中で1人、涙を流していた。
同点の9回裏1死一、二塁。バントも考えられる場面で「思い切って行け」というベンチからの言葉に、背中を押されて打席に向かった。試合終盤は、昨季までならベンチ裏で守備か走塁かの準備を進める時間。今季はスタメン出場が増え、この日は一打サヨナラの場面でも代打が送られなかった。
「もう、気持ちだけ。ミスが続いていたので……」
阪神4番手の岩崎優がカウント1-1から投じた低めチェンジアップに食らいついた。
7年間でスタメンはわずか8試合。
プロ入りから役割は代走や守備固めが主だった。昨季まで7年でスタメン出場はわずか8試合。今季はすでに7試合でスタメン起用されている。
「こんなに試合に出るのは初めて。正直、ミスして1プレーの怖さが身に染みています。すごくいい経験をさせてもらっている。スタートで出ても、途中で出ても変わらない。1プレー1プレー、必死」
大きな緊張感と重圧と戦っている。求めていた場所に喜びと充実感はある。それ以上に強い責任感を感じている。プレー機会が増えることで得られるものは喜びだけではない。苦い経験や悔しさがついて回るのが、勝負の世界。今季の上本にも、うれしい経験には苦い経験もつきまとう。
自身2543日ぶり、プロ2本目の適時打が自身初のサヨナラ打となったあの試合も、同点に追いつかれた9回の守りで判断ミスがあった。
1点リードの9回表。1死一、三塁で阪神・梅野隆太郎の二遊間への強いゴロを処理した菊池涼介からのトスを受け、間に合わない一塁へ反転しながら送った。勝ち投手の権利を持っていた明大の後輩・森下暢仁に白星をつけてあげたい思いだったが、送球は大きくそれ、打者走者は二塁へ。
「体勢がバラバラで(球が)抜けてしまった」
結果、フランスアが後続を抑えたものの、一打勝ち越しとなる状況をつくってしまった。