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初サヨナラ打で涙のカープ上本崇司。
「こんなに試合に出るのは初めて」 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byKyodo News

posted2020/09/01 11:40

初サヨナラ打で涙のカープ上本崇司。「こんなに試合に出るのは初めて」<Number Web> photograph by Kyodo News

上本は2013年にドラフト3位で入団。両打ちに取り組んだ時期もあったが、現在は右打席に専念している。

「切り替えがヘタクソなんですよ」

 プロ入り初の猛打賞を記録した同21日巨人戦も、6点リードの9回無死一、二塁から丸の打球を後逸。チームはここから4失点し、守護神フランスアを投入して逃げ切るあわやの展開となった。

 同25日のDeNA戦(横浜)では途中出場から、同点の9回1死一塁にバントを試みるも併殺で流れを切り、直後にサヨナラ負けを喫した。

 良い記憶よりも悪い記憶が残るのは、アスリートの性だろうか。広陵高、明大の先輩・野村祐輔は「悪いことばかり覚えている。いいことってそんなに覚えていない」と漏らしたことがあった。

 上本も「切り替えがヘタクソなんですよ」と過去の失敗を引きずる。プロ入りからずっと1球の重み、1プレーの重みが増す代走や守備固めの切り札としてプレーしてきた。勝負を左右する局面で、1つのミスも許されない。「できて当然」という重圧は計り知れない。

 3連覇した2018年にもシーズン終盤に自身の失策から土壇場に追いつかれ、延長戦で大敗した試合で涙を流したこともあった。

 難しい役割をこなしながら、ずっと悔恨の情とともにプロ野球人生を歩んでいるのかもしれない。

10時間前からの準備、黙々と振る。

 途中出場が続くシーズンも、レギュラー選手よりも早く球場入りした。わずかな出場時間のために、10時間前から準備した。昨季まで練習前にグラウンドで行われていた早出特打に姿はなく、屋内ブルペンで1人、黙々とバットを振っていた。昨春キャンプでは選手が順番に打席が与えられるシート打撃で最後まで守備と走塁に終わり、悔しさをこらえ切れなくなったこともある。

 チャンスがないと嘆かず、歩みを止めなかったからこそ、今がある。ミスや失敗、悔しさは成長を妨げるものとは限らない。成長を促進させる糧にだってなる。

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