JリーグPRESSBACK NUMBER
中村憲剛「等々力に神様はいたな」
大怪我からの帰還と2月のやりとり。
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/09/01 11:50
復帰戦でのゴールに観衆だけでなく、関係者も拍手を贈った。中村憲剛は今もなお川崎フロンターレ、そしてJリーグの顔である。
「そういう期間をくれたのかなと」
チームは王座奪還に向けたピッチ内の準備を着々と進めていた。
一方で、左ヒザ前十字靭帯損傷と外側半月板損傷で全治7カ月の中村憲剛は、リハビリの真っ只中。復帰時期は夏の予定だ。言い換えれば、ここから約半年もの間、「クラブの象徴であるバンディエラがピッチにいないシーズン」を過ごすことを覚悟しておかなくてはならなかった。
わかっていたことではあるが、これはJ1に復帰した2005年から、川崎フロンターレというクラブに関わる全ての人が経験したことがない出来事である。
そのことを中村本人はどう受け止めているのか。
「これまで17年プロとしてやり続けてきたから、そういう(休む)期間をサッカーの神様がくれたのかなと思っている」
開幕前後のある日の練習後に尋ねてみると、端的にそう語ってくれた。
「サッカーの神様」というフレーズ。
冒頭でも触れたが、中村憲剛はときおり「サッカーの神様」というフレーズを使う。サッカーを知り尽くしているこのベテランは、この競技では自分のコントロールできない領域や説明できない非論理的な出来事がよく起きることを知っている。
それはピッチ外でもしかりである。
もともと日頃の十分なケアの甲斐もあり、長期離脱するような大怪我とは無縁なキャリアを過ごしてきた選手だ。そんな男の39歳の誕生日直後に訪れた、理不尽とも言える出来事だったが、だがそうした試練も、サッカーの神様が与えた意味のあるものだと捉えているのである。
せっかくなので、聞いてみようと思った。
それは彼が口にする「サッカーの神様」という存在である。中村憲剛にとってのサッカーの神様とは、一体どんな姿をイメージしているのだろうか。子供じみた質問だとも思ったが、そこをあえて具体的に聞いてみたくなったのだ。
「中村憲剛にとってのサッカーの神様って、どんな姿をイメージしているんですか。女神なのか。それとも、仙人のようなおじいさんなのか……」
こんな質問をしてくる奴もいないだろう。
だが中村は笑って質問をはぐらかすわけでもなく、「うーん」と押し黙り、真剣な表情で考え始めてくれた。