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「頼むから、セ・リーグに行ってくれ」 清原和博と秋山幸二が明かす、野茂英雄との真剣勝負の舞台裏 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byMasato Daito

posted2021/05/03 06:02

「頼むから、セ・リーグに行ってくれ」 清原和博と秋山幸二が明かす、野茂英雄との真剣勝負の舞台裏<Number Web> photograph by Masato Daito

清原和博と秋山幸二、2人の主砲に大きな衝撃を与えた野茂英雄

野茂のリリースポイントが見えなかった

《よりによって近鉄か……》

 その憂鬱は、いざ野茂と初対決の打席に立っても清原の心に変わらずあった。

 2つの四球、自らの失策。満塁で清原。ルーキーがいきなり迎えた試練に藤井寺は騒然としていた。ただ清原には追い込まれているはずの野茂が異様に大きく見えた。

《こんなにデカかったんか……》

 野茂は打席の清原に正対すると、まるでランナーなどいないかのように思い切り体を捻って、伸び伸びと腕を振ってきた。

 清原には一度隠れてから突然出てくる野茂のリリースポイントが見えなかった。白球があっという間に眼前に迫ってきた。

 ふとバックスクリーンのスピードガンに目をやると、それまでよりも数字が跳ね上がっていた。清原はそれを見て、野茂がどんな投手であるかを直感的に理解した。

《フォークは考えなくていい。ストレート一本で振ろう》

 ただ、狙ったはずの直球にバットは空を切った。空振り三振。なぜ当たらなかったのか。清原はまじまじとバットを見た。

 清原の頭には、その後の3打席――センター前ヒット1本――のことも、チームが勝ったのか負けたのかということも残らなかった。あの最初の、妙に清々しい三振だけが刻まれていた。気づけば憂鬱はどこかへ消えていて、次の野茂との対戦はいつだろう、と考えている自分がいた。

新聞と秋山幸二の本音は違った

『フォークばっかり。もっとストレートでくると思ったよ』

 秋山幸二は野茂との初対戦を終えた後、番記者たちに向けて、苦笑いをつくった。

『リーグを代表するホームランバッターが、真っ向勝負してこない新人に拍子抜け』

 メディアも世間も発言の真意をそうとらえた。事実、翌日の新聞には秋山のこのコメントが見出し付きで掲載された。

 ただ、秋山の本音は違った。初めて見た野茂のボールに衝撃を受けていた。

【次ページ】 なんとか直球勝負の土俵に引きずり込みたかった

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