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「頼むから、セ・リーグに行ってくれ」 清原和博と秋山幸二が明かす、野茂英雄との真剣勝負の舞台裏
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byMasato Daito
posted2021/05/03 06:02
清原和博と秋山幸二、2人の主砲に大きな衝撃を与えた野茂英雄
「これでは、野茂に申し訳ない」
4球目。空に聳えるトルネードから放たれた直球を清原のバットがとらえた。視線の先で白球が右中間を割っていく。ツーベース。ノーヒットノーランの夢、潰える。スタジアムには痛快でたまらないという歓声がこだましていた。西武ベンチにも、解き放たれたような笑みが並んでいた。
だが、その中で清原だけは二塁ベース上でどこかバツの悪そうな顔をしていた。
《あれはホームランにしなければいけなかった。そうでなきゃ……野茂に申し訳ない》
相手からヒットを放ったのに、そんな気持ちになったのは初めてのことだった。
清原が野茂と対戦したのは、そのシーズンが最後になった。
あれはまるでメジャーリーグの勝負だった
1995年の5月。テレビ画面の向こうにはドジャーブルーのユニホームをまとった野茂がいた。秋山はそれを見ながら、誰も想像しなかった当たり前のことに、気づかされたような思いだった。
《ああ、日本人でもメジャーにいけるんだ。日本人でもやれるんだ。ひょっとしたら……俺もいけたかもしれないな》
秋山はプロ2年目、アメリカのマイナーへ野球留学した頃からメジャーに憧れていた。ただレベルの違いや日本球界に移籍の制度がなかったことから現実の目標とは考えなかった。それを野茂は現実にした。
もっとも、カリフォルニアの空に映えるトルネードに対して嫉妬や後悔を抱いたわけではない。西武からダイエーに移った秋山には目の前にやるべきことがあった。
それに何より、秋山の胸には表か裏か、「2分の1」を巡る野茂とのゾクゾクするような勝負の感触がずっと残っていた。
《そういえば、あれはまるでメジャーリーグの力と力の勝負みたいだったな》