球体とリズムBACK NUMBER
ネイマール&ムバッペも封鎖成功。
CL覇者バイエルン、極上の組織美。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2020/08/24 20:00
コロナウイルス禍で大会方式が変わったとはいえ、“全勝でのCL優勝”はバイエルンの強さを象徴するものだった。
涙のネイマール、3冠のバイエルン。
試合終了の笛が鳴った後、この28歳のブラジル代表FWは悔し涙に濡れた。
今季開幕前には大きな移籍騒動を起こした張本人だが、気持ちを入れ替えて臨んだシーズンの最後は、グランドフィナーレとはならなかった。彼の胸には、どんな想いが去来していただろうか。
シーズン途中にフリック監督がアシスタントから昇格すると劇的に蘇り、以降はどんな相手をもタフにねじ伏せてきたバイエルン。彼らは史上最長のシーズンの勝者にふさわしい。
決勝では、この短期決戦で相手よりも休養が24時間少なかった。そもそもパリ・サンジェルマンは3月にリーグアンが打ち切られたことにより、十分にリフレッシュしていた。そんな不利をモノともせず、相手と縁の深い選手が決勝点を決めて、6度目の欧州制覇と2度目の3冠を達成したのだ。
信じがたい決定力を見せてきたレバンドフスキ、監督交代で復調したトーマス・ミュラー、硬質な面々が多い中で異質な妙技を連発するチアゴ・アルカンタラ、最後尾の司令塔を務めるダビド・アラバ、近年の最大の発見の1人となったアルフォンソ・デイビス、そして世界最高のGKノイアー。ファイナルで試合唯一の得点を挙げたコマン以外にも、殊勲者は多い。
「個人を讃えようとは思わない」
けれども、フリック監督は「個人を讃えようとは思わない」と試合後に話した。
「フットボールはチームスポーツであり、我々はひとりの選手のことを考えたりはしない。(決勝点を奪った)コマンもそのなかで、彼の役割を完璧に全うし、非凡な能力を見せつけたのだ。このチームはシーズンを通して、劇的に成長した。本当のハードワークを続けてこなければ、3冠は達成できなかった」
試合の入り方から、勝ち方、そして指揮官の締めの言葉まで、実にバイエルンらしいものだった。混乱のシーズンの最後に、強い勝者が生まれた。