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ファン2000人が善意で本拠地工事。
遠藤渓太加入ウニオンの熱が凄い。

posted2020/08/23 11:40

 
ファン2000人が善意で本拠地工事。遠藤渓太加入ウニオンの熱が凄い。<Number Web> photograph by Getty Images

マリノスからベルリンの地へと旅立った遠藤渓太。プレシーズンで積極的なアピールを見せている。

text by

中野吉之伴

中野吉之伴Kichinosuke Nakano

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Getty Images

「クラブよりも偉大な存在はいない」

 遠藤渓太が横浜F・マリノスからレンタル移籍した、ウニオン・ベルリンの合言葉だ。ファンが熱いクラブは数多くある。普段であれば、どこに行ってもスタジアムは満員だ。それでもウニオンは、ドイツでも別格の団結力を感じさせるクラブである。

 1906年、前身となるクラブが創立。1966年にウニオン・ベルリンとして歩み出した。東ドイツ時代には国家保安省の支援を受け優遇されていたベルリナーFCディナモとは違い、政治的な恣意で苦しむ期間が続いた。

 それでも彼らは、常に正々堂々と自分たちの信念を曲げず、屈強な相手にも立ち向かってきた。そんな彼らの姿勢に共感し、スタジアムに足を運ぶファンの数がどんどん増えたという。世代を超えて、クラブとファンとの絆が育まれていった。

 とはいえ、10年前まではブンデスリーガ昇格を口にできるような資金も環境もなかった。ブンデスリーガのクラブならば当たり前にある広くてゆったりとしたロッカールームも、サウナも、水風呂もない。

 それでも、クラブとファンには自分たちの夢に向かって走り続ける熱さがあった。

2000人以上が自発的に改築工事。

 2008年、クラブはスタジアムの改築工事を行ったが、実に2000人以上のファンが工事を手伝った。工事に要した時間は合計14万時間……誰に強要されたわけでもない。謝礼をというクラブ側の言葉にも首を縦に振らない。

 そんなことよりも大切なものがここにある。自分たちの思いが膨れ上がる特別な場所を、自分たちの汗と笑顔とともに作り上げたのだから。

「スタジアムはファンのもの」というのは、言葉上のことだけではない。

 スタジアム株の44%を5483人のファンが購入している。だからスポンサー名をつけたネーミングライツをお金のために受け入れたりはしない。自分たちのスタジアムの名前を守る権利を、自分たちで保持している。これは、特筆すべきことではないか。

【次ページ】 全てのファンが味方を鼓舞する。

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