野球善哉BACK NUMBER
明石商・中森俊介は完成形ではない。
狭間監督の厳しい言葉にホッとする。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/08/16 15:40
明石商のエース、中森俊介はプロ志望すれば上位指名確実と言われているが、まだ進路は明確にしていない。
インコースを捨てた広瀬、投げ込んだ中森。
空振り三振を喫した広瀬の回想。
「インコースのストレートは予想していなかったですね。打てるとすれば、2球目の外のストレートでした。でもあの時は、一塁走者がスタートを切っていてベンチから振るなって声が聞こえた。最後は魂のこもったボールで、相手の方が力が上でしたね」
中森はこう振り返っている。
「(相手の打線は)真っ直ぐ一本に合わせていると思っていました。だから、変化球でタイミングをずらして打ち取っていこうと。8回のピンチは、相手の打者(広瀬)は以前の試合でもインコースの真っ直ぐに詰まっていた。この試合、2つのデッドボールを当ててしまっていたんですけど、気持ちを強く持って投げました」
中森は終盤の3イニングを「体力不足」と振り返っている。下半身に力が入らなくなり、手投げになっているのを感じていた。明石商の狭間監督も「皆さんも分かる通り、終盤、肘が下がっていたでしょう」と指摘していた。しかし、それでも中森は崩れなかった。
9回も無死一、二塁のピンチを作ったが、6番の星野綜汰を併殺のサードゴロに抑え、代打の川端琉真に適時打を浴びたものの後続を抑えてゲームセット。しっかり勝ちきった。
噂に違わぬピッチングを見せたが……。
試合後、中森は完投勝利をこう振り返っている。
「序盤はいい感じで、いいテンポで投げれていたんですけど、終盤にかけて、体力が無くなって球威も落ちた。9回は勝利にこだわりました。タイムリーを1本打たれてしまいましたけど、自分のピンチは自分で乗り切りたいなと思って投げました」
マウンドでの佇まいも、試合後の落ち着き払った取材対応ぶりも、まるでプロ野球のローテーション投手を見るかのようだ。
しかし横浜高・小倉氏の言葉を反芻すると、やはり「完成」という言葉には怖さもある。正直、この日の中森に期待していたのは、勝利に導く完璧さよりも、荒削りな部分を見せてくれることだった。しかし中森は、噂に違わぬ勝利に直結するピッチングを見せた。