炎の一筆入魂BACK NUMBER
最下位低迷のカープでも淡々と。
「控え捕手」を全うする磯村嘉孝。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2020/08/04 17:00
2011年にドラフト5位で入団した27歳。今季は12試合出場で打率.286(8月3日時点)。
捕手の「便利屋」なのかもしれない。
気付けば、広島の3番手捕手のポジションにいた。正捕手の會澤とベテラン石原を支えてきた。
'19年は代打の切り札として起用され、代打成功率3割2分3厘の好成績を残した。限られたベンチ入りメンバーでチーム力を最大限にするために、野手や中継ぎには「便利屋」と呼ばれる選手がいる。磯村は捕手の「便利屋」なのかもしれない。
3番手捕手を務める中で、ただ指をくわえて出番を待っていたわけではない。少しでも実戦勘を鈍らせないために、先発捕手が防具をつける間の投球練習を捕手用具フル装備で受けてきた。
徐々に存在感を示している今季もそうだ。開幕二軍スタートから、7月15日に一軍昇格。当初は3番手捕手だったが、代打を経て、徐々にマスクを被る機会を増やした。22日の阪神戦では同じように開幕後、二軍調整を続けてきた野村祐輔とのバッテリーで今季初のスタメンマスクを被った。
試合終盤にリリーフが打たれてチームは引き分けに終わったものの、野村の6回1失点の好投を引き出した。
「一軍で経験のある投手なので、打者中心に配球を考えられた」
メモを欠かさず、野村をリード。
打者の反応を見られる場所は、バッターボックスの後ろだけではない。磯村は出場機会が限られていた初の一軍昇格以降、ベンチにいてもノートにメモを書き留めてきた。打者の初球と勝負球、打席での印象……スタメンマスクを被るときには、受ける投手の前回登板だけでなく、対戦相手のチャートも自宅に持ち帰った。
野村と2度目のバッテリーを組んだ29日の中日戦は、球場のスピードガンでは140kmにも満たなかった技巧派をリード。野村に勝利を届け、磯村自身にとっても今季初の勝利捕手となった。
「祐輔さんの状態がいい。コントロールが良く、投げミスが少ない。あれだけコントロールがいいので、球で勝負するというよりも、読み合い勝負になる」
若い投手とバッテリーを組んでいた昨年までとは違い、実績ある野村とのバッテリーでは、蓄積している相手打者目線で配球できる。野村-磯村のバッテリーは2試合、14回で9安打1失点、防御率0.64と安定している。
与えられた場所で咲こうとする心、行動が便利屋捕手としての安定感となっている。