炎の一筆入魂BACK NUMBER
最下位低迷のカープでも淡々と。
「控え捕手」を全うする磯村嘉孝。
posted2020/08/04 17:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)がベストセラーとなったのは2012年のことだから、それから時は流れ、時代は変わっているのかもしれない。今は置かれた場所で咲くことよりも、むしろ自分を咲かせやすい場所を探すことが推奨される時代になったようにも感じる。
ただ、置かれた場所で咲こうとする努力は、今も変わらないのではないだろうか。
3カ月遅れの開幕から1カ月半が経ったプロ野球では、2016年から'18年まで3連覇した広島が最下位に低迷。なかなか停滞を打ち破れずにいる。苦しい戦い、苦しい状況の時こそ、それぞれが置かれた場所で咲こうとすることが求められるのではないか。
プロ10年目の磯村嘉孝はまさにそんな選手だ。
下からの突き上げにも動じず。
中京大中京高校2年時に、現在もチームメートの堂林翔太とバッテリーを組み、全国優勝を成し遂げた。'10年のドラフト5位で広島に入団した当時は正捕手・石原慶幸と、一軍で頭角を現しつつあった4学年上の會澤翼がいた。出場試合数を見ると、プロ初出場を果たした'12年は1試合、'13年は4試合、'15年は1試合と、目指した山の頂が高かった。
一軍に定着したのは24試合に出場した'16年。ただ、同年秋のドラフトでチームは坂倉将吾を指名すると、翌'17年ドラフトでは中村奨成をドラフト1位指名した。坂倉は高卒1年目から一軍昇格、中村は甲子園で清原和博が持つ1大会の最多本塁打を更新したスター球児。有望な逸材が新たなライバル候補として加わった。
そして今季、その中村が初めて一軍に昇格。磯村にとっては、上には正捕手として君臨する會澤がいて、下からの突き上げもある。広島の激しい捕手争いはしばらく続いていくことになるだろう。
「若い選手も育っているし、この世界、しょうがない、そう割り切ってやるしかない。周囲が思っているほど悔しさはないかもしれない」
大きな注目を集める後輩の存在にも、こちらが想像していた焦りや強い危機感は感じられない。決して強がりではない。それが磯村の人としての魅力であり器。プロとしては弱みかもしれないが、ここまで生き抜いてきた幹となる芯の強さかもしれない。
「どこであっても試合に出たところで結果を出さなければいけない。昨年の場合は代打で使ってもらっていたので、代打で結果を残そうと。それだけです」