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巨人・原辰徳監督の“人を動かす”
采配術。「うちはデータより役割」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/07/31 11:50
原監督は先発オーダーを“猫の目”のようにかえながら、首位を快走している。
このシチュエーションなら「お前さんの仕事」。
データ上は不利なのは分かっていても、あえて左投手を攻略することを仕事にする右打者に、攻略の糸口を見つけ出させるために組んだオーダーだったという説明だ。
全員で戦うのが原野球の真骨頂だ。
ベンチに入っている選手は必ず役割があり、その役割に沿って首脳陣はその選手を起用する。
「こういうシチュエーションになったらお前さんの仕事だよ、と。だから選手も『ここは俺の出番だ』『この投手なら声がかかるぞ』って、準備をして待っている」
そういう選手たちに与えた役割とその責任感を尊重した。その結果がデータとは裏腹のあの右打者を並べたオーダーだったという訳なのである。
選手個々に役割を与えることで、控えも含めた全員が、固唾を飲んで試合の流れを見ている。明日は先発かもしれないと思えば、相手投手の研究にも熱が入る。役割があるから1人も気の抜けた選手はいないし、全員が常にゲームに参加している。
それが原巨人の全員野球を動かす大きな力なのである。
変わり身の早さもまた、名将の条件。
この日のオーダーで1番の北村や7番に入った陽などは、対左投手のときに出番が回ってくる。左投手が出てきたら自分の出番だと思っている選手たちなのである。
だからこそデータでは右打者が優位なのは分かっていても、あえて彼らから左を打つチャンスを奪うことはしなかった。
情ではない。限られた人材を活用していくためには、選手のやる気と働き場所をしっかり与える。それが原流の人の使い方、チームの動かし方ということなのである。
そしてもう1つの原流の選手起用も忘れてはいけないだろう。
「でもあれだけ打てないと次は考えなくちゃいけないよね。試合中から(元木大介)ヘッドともそのことは話していたんだ」
決断が遅れることが最大の悪手という指揮官は、チャレンジもするが方向転換の早さもまた大きな特長なのである。
次の濱口との対戦では、おそらく左右にとらわれない打線を組んでくることになるはずだ。
君子豹変す。
その変わり身の早さもまた、名将の条件なのである。