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巨人・原辰徳監督の“人を動かす”
采配術。「うちはデータより役割」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/07/31 11:50
原監督は先発オーダーを“猫の目”のようにかえながら、首位を快走している。
濱口は右打者より左打者を苦手としている。
ただ、である。
同じ左投手といっても、濱口に特化したデータを検証すると、実はこれまでとは全く違う原監督の意図がこのオーダー編成からは見えてくるのだ。
この試合前までの濱口の左右打者別の対戦成績は以下の通りだった。
対左打者 46打数18安打7三振9四球 被打率3割9分1厘
対右打者 70打数16安打13三振11四球 被打率2割2分9厘
右打者の外角へのチェンジアップを武器にするため、逆に左打者の内角をなかなか攻めきれない。そんな濱口の特長が出て、むしろ右打者より左打者を苦手としているというデータがある。
要は濱口は、単純な左投手には右打者というセオリーが、通用しない投手だということを示しているのだ。
失礼を承知で原監督に聞いてみると……。
ところが巨人はその濱口に右打者を並べた。
そして結果は案の定というか、6回途中で降板するまでわずか3安打、丸とウィーラーのソロホーマーによる2点に抑え込まれて試合を落とすこととなってしまった。
データを知らなかったのか? それともデータの読み違いでもあったのか? プロとしてそんなことはあるとは思えないが、いずれにしても試合が始まる前の先発オーダーを決めた時点で、巨人の対濱口戦略は失敗していたともいえる結果だったのである。
そこで試合後、失礼を承知で監督に聞いた。
「濱口の右打者へのデータって入っていましたよね?」
すると原監督はあっさり言う。
「知ってたよ」
それではなぜデータを無視して右打者を並べるオーダーを組んだのか?
「うちは役割ということでやっているからね。まずそこからあのオーダーでいきました。データより彼らの役割を優先していこうということで、ああいう先発オーダーを組んだということだね」