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日本人初のスペイン挑戦を断念。
流浪のラグビーマン「誰も悪くない」。 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byYasu Takahashi

posted2020/07/25 20:00

日本人初のスペイン挑戦を断念。流浪のラグビーマン「誰も悪くない」。<Number Web> photograph by Yasu Takahashi

豪州で武者修行を積んでいた藤山裕太朗。そこで見せたプレーが認められスペインリーグからオファーが舞い込んだ。

SNSに届いた怪しいメッセージ。

 日本に帰ると、藤山は首を手術し、大阪の実家に帰ってリハビリの準備を始めた。その矢先だった。藤山のSNSに怪しいメッセージが送られてきた。

 スペインでプロラグビープレーヤーになりませんか?

 新手の詐欺か? そう思って藤山はそのメッセージを放置した。自分にそんなオファーが届くわけがないし、そんなオファーがSNSに届くわけがない。

 だが、無視していると、2日後には「返事をくれ」というメッセージが届いた。発信者の名前はデヴィッド・マルチン・シフエンテス。メッセージには「私はスペインのブルゴスにあるアパレハドーレスというクラブのヘッドコーチだ。選手をスカウトに行ったオーストラリアで貴方のプレーを見て、オファーしようと思った」とあった。

 まったく想像外の事態だった。そもそもスペインにラグビーのプロリーグがあるのかどうかも知らない。レベルも見当がつかない。そして自分は首を手術したばかりで、プレーできる身体ではない。断りの返事を送った。だが、返事は速攻で返ってきた。

「契約は来季だ。開幕は9月だから問題ない。是非来てほしい」

未知のスペイン挑戦「やめとけ」の声も。

 悪い気はしなかった。調べてみると、スペインリーグは1部が12チームで構成され、ニュージーランドやオーストラリアから、スーパーラグビーのちょっと下の選手が流入しているらしい。

 ちょっと待て。もう1人の自分が言った。行ってどうなる? 目標はトップリーグでプレーすることじゃなかったのか? スペインに行って、その目標は近づくのか? 実際「やめとけ」とはっきり言ってくれる人もいた。

 だけど、面白そうな気もした。スペインにはいろいろな国の選手が集まっていて、最近はアルゼンチンの選手も増えているという。世界のラグビーでもスクラム王国として知られるアルゼンチンの選手たちとスクラムを組んだらどんな感じなんだろう? そこにはオーストラリアともまた違ったラグビー文化がありそうだ。

 デヴィッドの文面には、日本のラグビーへの敬意が感じられた。オーストラリアで見てもらった自分のプレーは、ワールドカップでの日本代表の活躍によって、彼の頭の中で増幅されていたのかもしれないが、それは嬉しいことだった。

 具体的な条件も送られてきた。給与自体はたいした額ではなかったが、往復の航空券代、住居とクルマ、食事、保険、トレーニングジム、ワーキングビザも用意するという。ただで留学できるようなものだ。トップリーグへのチャレンジは先延ばしになっても、海外経験、それも、日本人が誰も行っていないスペインリーグでの経験は、違う武器になるんじゃないか。

 藤山は腹を決めた。3月12日、メールに添付されて送られてきた契約書にサインして藤山は送り返し、契約は成立した。チームには8月15日に合流し、9月の開幕に備えるというスケジュールも確認した。

 その矢先に、世界をコロナが襲った。

【次ページ】 「いつかもっといい形で会えることを」

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