スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
宿敵バルサファンが棺桶を用意!?
5度目降格エスパニョールの悲哀。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2020/07/21 11:30
同都市のバルサ相手に2部降格を突き付けられたエスパニョール。1年でのプリメラ復帰を果たせるだろうか。
「ファンの愛情はお前たちの力だ」
スタンドに出ると、バックスタンドに貼られた大きな横断幕が目に入ってきた。描かれているのは背番号12が入ったユニフォームと「LA FORCA D'UN SENTIMENT」のメッセージだ。
FORCAは「力」、SENTIMENTは「感情、愛情」を意味する。そして背番号12は「12番目の選手=ファン」。つまりは「ファンの愛情はお前たちの力だ」と選手たちに伝えたいのだろう。
だが幸か不幸か、今はファンの拍手も声援も、罵声も指笛も受けることはできない。耳に届くのはボールを蹴るたびに響くバシンという音、そして「ダレダレ!」「ブエノ!」と檄をとばす自分たちの声だけだ。
「俺において最悪の前半だ」
試合がはじまった。「オラー、ブエナス!」。斜め後方のキャビン席に陣取る2人のラジオのレポーターが、競うように声を張り上げて実況を開始する。
23分、エリア内左で乾貴士がふわりと浮かせたボールがビクトル・ゴメスの手に当たり、エイバルの先制点となるPKを献上。今季デビューした20歳のカンテラーノに続き、34分には31歳のベルナルドがやはりエリア内のハンドで追加点となるPKをプレゼントした。
ボールを持たされても攻め手がなく、守備陣はつまらないミスから失点を重ねる。今季のエスパニョールを要約したような前半を終えると、ハーフタイムには近くで2人の記者が交わす切ない会話が耳に入ってきた。
「大げさでなく、俺の人生において最悪の前半だ」
「これで22敗目。しかもまだ5勝だぞ。今夜レガネスが勝ち点を取ったら、最下位も確定だよ」
後半は特筆すべき出来事もなく、そのまま0-2で終了を迎えた。ピッチ上では、数時間後に残留が確定するエイバルの選手たちが喜びの声を上げている。
一方、数時間後に最下位が確定するエスパニョールの選手たちは、力ない足取りでロッカールームへ引き上げていった。