球体とリズムBACK NUMBER
なでしこ10番籾木結花、米移籍の意味。
ラピノーとの共演と日本への還元。
posted2020/07/03 07:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
OL Reign
現在のなでしこジャパンでエースナンバー10をまとうのは誰? 籾木結花だ。
えっと、どんな選手? 高い技術と聡明な頭脳を備えた左利きの小柄なアタッカー(153センチ・49キロ)と表現できる。落ち着いたプレーの裏には、マインドフルネス(坐禅)の効果もあるという。
では、どんな女性なの? ニューヨーク生まれ、東京育ちの24歳だが、都会で人擦れしたようなところはない。小動物を思わせる可愛らしい両目を持ち、口ぶりは落ち着いているけれど、時折、内に秘めた静かな熱を垣間見せる。そして小さな体に、壮大な夢、いや目標を携えている。
そんな彼女が先ごろ、アカデミーから過ごした日テレ・ベレーザを離れ、アメリカ女子サッカーリーグ(NWSL)のOLレイン――あのミーガン・ラピノーが所属するクラブだ――へ移籍した。
憧れるラピノーとの共演を願って。
なでしこの「10番」と訊かれたら?
ここまで読んで、面白そうな人物だと思ったひともいるかもしれない。でも以前なら、なでしこの10番と訊かれたら、説明など必要とせずに、多くの人が「澤穂希」と即答できたはずだ。本人も認めるとおり、今の籾木にそこまでのネームバリューはない。というよりも、日本女子サッカー全体への関心が、以前と比べてずっと薄れてきている。彼女はそう感じている。
「なでしこジャパンへの興味は年々、下がっていると思います。国民にとって必要なものではなくなってしまったというか」と籾木は画面越しに言う。
アメリカに渡ってひと月ほどが経ち、彼女はモンタナ州のキャンプ地に滞在していた。現在はユタ州へ移動し、川澄奈穂美が所属するスカイブルーFCとのカップ戦で途中出場ながら新天地デビューを飾っている。「もともと夢に見ていた」海外での挑戦がついに始まり、日焼けした表情には充実感が滲んでいる。そして言うべきことを、嫌味なくストレートに口にする。少し高めのキュートな声で。