なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
丸山桂里奈が決めた伝説のゴールと、
数日後の「なんで私だけ……」。
posted2020/07/09 07:00
text by
金子悟Satoru Kaneko
photograph by
Satoru Kaneko
「ドイツ戦後に予約してた宿、全部キャンセルしときますか?」
決勝戦の日までシェアする宿の部屋の手配をしてくれた懇意のライターが、私にこう問いかけた。その問いに対して、プレスルームの天井を見上げることしかできなかったのには訳があった。
2007年に監督に就任した佐々木則夫の元で着実に力をつけていた、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)は、2008年の北京五輪で初のベスト4。そして、この2011年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会では、組織的なパスサッカーが完成形に近づき、今度こそメダルが取れるのではないかと感じていた。
東日本大震災発生からわずか4カ月後の7月5日、なでしこジャパンは、女子ワールドカップグループBの1位通過をかけ、ドイツ・アウグスブルクでイングランドと対戦した。
ところが、苦手とするイングランドを相手に0-2の完敗。グループBを2位で終えることになった結果、次戦の対戦相手は、歴史上一度も勝利したことがないこの大会のホスト国、ドイツに決まった。
選手たちは落胆していなかった。
そのドイツ戦の2日前、試合会場があるヴォルフスブルクに移動したなでしこジャパンを取材するため、私は重い気分で市内のトレーニング場へ向かった。
ドイツとの戦いを前に選手たちも落胆しているのではないかと想像していた私は、目の前の光景に目を疑った。
澤穂希、宮間あやなどの主力組は気丈に笑顔で振る舞うこともあるだろうが、サブ組の丸山桂里奈、そしてチーム最年少の岩渕真奈までもドイツ戦を前にリラックスして汗を流していた。
「追い込まれたら強いのが、なでしこジャパンですから」
北京五輪でのノルウェー戦で、逆転勝利に貢献した澤が口にしたフレーズを思い出した。このリラックスした雰囲気は、単なる開き直りではない。