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なでしこ10番籾木結花、米移籍の意味。
ラピノーとの共演と日本への還元。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byOL Reign
posted2020/07/03 07:00
モンタナ州のキャンプ地に合流した籾木結花。制限がある中、チームメイトと交流を重ね、1日のカップ戦で新天地デビュー。
女子サッカーの環境も変えたい。
およそ20年ぶりに出生国で再び生活を始めた彼女はきっと、アメリカで多くを学ぶだろう。「ファンに戻ってきてもらうためにも、世界一に」なるべく、選手として研鑽を積む。またひとりの女性としても成長し、世の中に変化を起こしたいとさえ考えている。
「日本の社会とサッカー界は、似たところがあると思うんです。日本のビジネス界の要所を占めているのは、ほぼ男性ですよね。何かの調査で、日本は世界の先進国の中で女性の社会進出率がとても低いという報告が出ていたように。
サッカーも、日本では男性がするスポーツだと捉えられている節があります。Jリーグや男子代表は国内ですごく成功しているけど、女子サッカーの環境は相対的に大きく劣ります。ビジネス界、サッカー界、それ以外の世界もそうかもしれませんが、そういった劣勢の環境で戦っている女性同士が、刺激しあい、応援しあい、もっとパワフルになれば、日本も盛り上がるのではないかと思います」
格好のロールモデルは今、籾木と同じチームにいる――以前から人種や同性愛、性別の差別問題への抗議を強く示し、男女の賃金格差是正を求めてきたアメリカ女子代表の主将ラピノーだ。
ラピノーに会う前に英語を。
彼女の存在は籾木の移籍を後押しするものだったとも聞いていたので、そう水を向けると、なんと、いるはずのラピノーは契約の問題で今季はOLレインに所属しなくなるかもしれないという。今でもクラブの公式サイトには、「(背番号)15/MEGAN RAPINOE」とあるのに。これもまた契約社会のアメリカらしい側面と言えるか。
「アメリカの代表選手はクラブではなく、協会と契約しているらしいので、クラブがすべての権限を持っているわけではないみたいで。こういうこともあるのかと驚きました。だからまだ会えていないし、一緒にプレーできない可能性もあるんです。でも、彼女に会う前に英語をたくさん学んで、ある程度話せるようになってから会えればいいかなと、その時間もプラスに捉えています。聞きたいこともたくさんあるし、彼女の言うこともしっかり理解したいので」
すべての物事とポジティブに向き合う籾木は、アメリカで多くの貴重な経験を積むだろう。いずれ、そこで得たものを日本に還元したいと彼女は言う。
「じぶんが生き残っていくことが先決ですけど、いつかその過程で感じたものを伝えていきたいです」
小柄で勤勉な日本人らしさと、世界への飽くなき興味と好奇心。その全てを備える利発でスキルフルなレフティが、女子サッカーの本場アメリカでどこまでの選手になるか。全方位に力をつけ、なでしこのエースナンバーを保ち、その壮大な目標に少しでも近づいていけば、きっと今よりも多くの人が彼女の存在を知ることになる。